ただいま配信中!~年上幼馴染は人気Vtober~
「ごっ、ごめん!」

 私はあわてて謝った。ばっと前を向き直す。

 どうしよう、失礼だっただろう。

 それにこんな近くで顔を見たことなんて、今まであるかどうか。

 むしょうに恥ずかしい。

 心臓がばくばく言うのを、服の上からそっと押さえた。

「あ、ああ……俺こそ悪い」

 背中から出雲くんの声が聞こえる。けれど向こうもだいぶ落ち着いていない声だ。

「やっぱお前すごいよ。もうちゃんと曲になってんじゃん」

 でもすぐに普通の口調と話題に戻った。

 私の胸はまだばくばくしていたけれど、ほっとしたし、嬉しくなった。

「そ、そう? ありがと……」

 ぼそぼそと、になったけれどお礼を言った。出雲くんの声も少しゆるむ。

「ああ。多分これから練習してくれて、もっと良くなるんだろうけど……」

 ほっとしたのに、それは数秒しか持たなかった。

 出雲くんがそう言いながら、ずいっと身を乗り出してくる。

 落ち着きかけていた私の胸は、どくん、とまた跳ねてしまう。

「俺、この部分が好きなんだ」

 私の肩越しに手を伸ばして楽譜の一部を指差す。

 さっき感じたいい香りがもっと強く香って、もはや私を包み込むように感じる。

 いや、それどころか抱きしめられているようにも錯覚する。

 なのに出雲くんときたら、普通に曲の好きな部分なんて話している。

 ああ、もう!

 私の心臓がもたないんだけど!?

 めちゃくちゃ意識してしまっているのが悔しいやら、でも当たり前に恥ずかしいやらで、私は胸の中で絶叫していた。
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