処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「人格も変わったうえに記憶もないのか」
「生まれ変わったと申しますか……」
「男女の仲と言えばわかるのか? 何度も逢瀬を繰り返しただろう。忘れたのか」

ずいっと顔が迫る。
唇が触れそうになって、咄嗟に顔を押し返した。

「わっわたしはリアではないので! あなたとそういった行為はできません……!」
ぐきっと首を曲げられたクランクは、忌々しそうにした。

「ゆづか」

「はい」

「お前は何者だ。リアは処刑されて、影武者ということか」

言い淀んでいると、押し倒されて服を剥がれる。襟を引かれ、肩から胸元まで丸見えになる。

「きゃあ! 変態! 恋人だったかもだけど無理やりとか人としてダメ!」

「ほくろの位置まで同じ影武者がいるっていうのか? お前はリアだ。なぜ別人のふりをする」

クランクの目は胸元にある、ほくろをとらえていた。

「え……ええと……詳しいことはよくわからなくて……とにかくわたしは、リアではなくゆづかと言います……」

転生したかも、なんて言っても通じないもんね。
リアは生きているかもしれないし。本当にわからないのだから仕方ない。
嘘を暴くような視線に、冷や汗が流れた。本当だもんと何度も唱える。

「まあ、以前のリアではないのは何となくわかる」

「信じてくれるのね……!」

なんだ、話の分かるやつじゃんと心をゆるした途端、「色気がまったく無くなった」と言われた。

「はい?」

「不思議なものだな。容姿はリアそのものなのに、以前の気高い雰囲気と色気が寸分も感じられない。一晩同じベッドで過ごしたというのに、昨夜は寝顔にも一ミリも欲情しなかったぞ。
好みの女だったはずなのに、人の意識とは様々なものに影響を及ぼすのだな」

剥がされた服をさらに下げられて、大事な胸元が空気にさらされた。
豊満な胸がぷるんと飛び出す。
それを凝視しながら至極真面目に語られて、わたしは悔しさでクランクに向かって、大きく腕を振りかぶった。

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