処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
カウルは破れたワンピースに泥と血だらけのわたしを頭からつま先まで眺めると、落ち着いたら取り調べのようなものがあるから、とりあえずこぎれいにしてこいと、お風呂へ放った。


「いったあー……」

軽く腕にお湯をかけると、傷に染みて体をぶるっとさせた。

石造りの大きなお風呂だ。
古代ローマのテルマエまで豪華ではないが、旅館の大浴場くらいの立派さがあった。
お湯は赤土を混ぜたようなオレンジと茶色の狭間のような色をしていて、薬品のような独特な匂いがする。


「温泉なのかな」


傷の痛みに耐えながら体を縮こませ、ちゃぷんと浸かる。おそるおそるゆっくりと腕や足を伸ばした。
ヒリヒリとする全身の力を抜くと、ふうと深いため息をついた。


(ーーーーなんて一日だ)


もしかしてわたしは元々リアという人間で、頭を打っておかしくなっている間に見ていた夢が、日本での生活だったのではないかと思うほどここはリアルだった。なんど確かめても夢ではない。

確かにわたしは死んだと思ったのに、どうにもここは死後の世界には見えない。

だから実際は、あのトラックに轢かれるという出来事から、一日ではなくてもっと何年も過ぎているのかもしれない。
前世の記憶をもったまま転生をしたというのが一番しっくりきた。もしくは転生はしていたが急に前世の記憶が蘇ったとか?

不思議な世界なのになんで言葉が通じるのかと思ったが、みんなが日本語を話しているのではなく、わたしがこの国の言葉を理解出来ているだけのようだ。
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