お嬢様は完璧執事と恋したい

 澪がソファに腰を下ろすと同時に朝人がコーヒーを用意してくれた。この家の執事となって早十年の彼は、当然のように澪がブラックコーヒーを飲めないことも熟知している。何も言わなくてもミルクとガムシロップを用意してくれる今日も完璧な執事の横顔をじっと見つめていると、父がコホン、と咳払いをした。

「先日会った神野君だが」
「こうの……?」

 父が口にした名前に、ミルクを注いでいた手を止めて首を傾げる。

「どちら様ですか?」
「お前な……神野不動産の専務だと、この前のパーティでちゃんと紹介しただろう」
「……あ、ああ」

 朝人さんと同じ年齢の、と口にするのはやめておく。実際それ以外のことはほとんど思えていなかったのだが、水を差すと話が長くなるのは目に見えている。それに当の朝人本人が、この会話を聞いてるのだ。

「彼と見合いをしてみないか?」
「……は?」

 朝人と同じ年齢という情報しかない男性の顔を思い出そうと考え込んでいると、父がとんでもないことをさらりと言い放った。
< 16 / 61 >

この作品をシェア

pagetop