お嬢様は完璧執事と恋したい

 声と同じく間抜けな表情になった自覚はあるが、驚きのあまり感情を取り繕うことさえ出来ない。

「神野君も澪に興味を持ってくれてな。改めて会いたいと言ってくれた。だから近いうちに正式に見合いの席を設け――」
「い、嫌ですっ!」

 がた、と音がしたのは、大きなソファから立ち上がったせいではなく、目の前にあったガラスのテーブルの縁に膝が当たったからだ。だが、ぶつけた痛みさえ今はどうでもいい。

「私は結婚なんてしません!」
「だがお前ももう二十一だろう? 父さんと母さんが結婚したとき、母さんは二十歳で……」
「そうじゃなくて!」

 父の言葉から、母がこの場に同席している理由をようやく理解する。母とわざわざ予定を合わせた上で澪を呼び出すということは、澪の縁談は父の独断ではなく、母も同意している――つまり、邑井家の総意ということだ。
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