エレベーターから始まる恋
「…あっ」

その手と私の手が重なり、思わず顔を上げる。
綺麗な二重の目がしっかりと私の姿を捉えていた。

「ごめんなさい、これ取ろうとしていました?」

気品溢れる声。同性の私でさえうっとりとしてしまうほどの美声だった。

「あ、いえ、その…」

ちょうど同じくらいのタイミングだし、彼女もこれが欲しかったのだろう。
どう答えようか迷っていると、後ろから聞き慣れた低音ボイスが耳に入る。

「江藤、早く食事済ませないと次のミーティング遅れるぞ」

振り返らなくても分かる。
この声…グンジさんだ。

と、言うことは…

「あ、ごめんなさい。すぐに決めます」

さっと手を引いて彼の元に駆け寄るその姿。
見覚えのある後ろ姿だった。

「買えたのか?」

「いいえ、売り切れたみたいです」

二人の会話を遠耳に、ぽつんと残ったフルーツサンドに目をやる。
そのままぼーっと立っていると、後から来た女性客が最後の一つを手に取った。

グンジさんは私に気づくことなく、"江藤"と呼ばれていた綺麗な女性と肩を並べて店から出ていった。


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