エレベーターから始まる恋
メニューを捲る所作が美しい。
血管の浮き出たゴツゴツした大きな手に思わず釘付けになる。

視線を感じたのか、メニューに落ちていた郡司さんの目がスッと私に向けられた。

「どうした?」

「あ、いや…」

そう言えば、いつの間にか私に対して敬語が抜けている。
少しだけ距離が縮まったような気がした。

「何にするか決まった?」

「はい。本日のパスタにしようと思います」

緊張してメニューをじっくり眺めている余裕もなく、ふと目に入った"本日のパスタ"に決める。

店員を呼び注文を終えたところで手持ち無沙汰になり、意味もなくおしぼりで手を拭き畳み直す。

何度も何度も畳み直し、さすがに不自然かと思った私はお水をちびちび飲み続ける。

そんな私をじっと見ている郡司さん。
見られているから落ち着かないのだ。

「緊張してる?」

「ごほっ!!」

水でむせる20代。
動揺を隠しきれない。 

緊張しないわけがない…
ずっと思いを寄せていて、でもエレベーターで顔を合わせる程度だった関係なのに、今となってはこうして二人で向かい合って食事しようとしているのだから。
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