エレベーターから始まる恋
ミーティングが終わり、次回の日程や部品の発注リストに関して話を進めている最中、会議室の扉が小さく開き、彼女は呼び出された。
出て行くところでさえ目で追ってしまう。

「…彼女は事務員ですか?」

目の前に座る石岡さんに尋ねる。
すると、背もたれにのけぞり腕を組んだ。
その態度に少々違和感を覚える。

「あ〜坂本ですか?事務と言っても議事録しか仕事できないんですよ。困りますよね〜」

横柄な態度。あぁ、思い出した。
清掃員である美知子ちゃんの使用中のバケツを蹴飛ばして行った男。

そして、確信した。
こいつか…彼女の仕事の悩みの種は。

得意気にぺらぺらと喋り続ける石岡さんに対して苛立ちが募る。
彼女を蔑むような言葉が耳障りだ。

表情は崩さず、石岡さんの話を聞く。
終わったところで俺はゆっくりと口を開いた。

「そうですか。以前彼女を見かけたことがあるのですが、石岡さんに似た男性が清掃員の使用中の用具を散らかしそのまま去ってしまったところを真っ先に片付けの手伝いに行っていました。
そう言った日の当たらない場所での行動をもっと評価して差し上げると、彼女のモチベーションも上がると思いますよ。
議事録しかできない?素晴らしいじゃないですか。
長時間の打ち合わせ内容を誰もが理解しやすいように正確且つ端的にまとめるのは誰もが簡単にできることではありません。
何なら今一番うちに欲しい人材ですね」

作り笑顔を浮かべながら途切れることなく言い放った。
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