貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「掛けるものが何も無いからな。気休めでもいいから膝に掛ければいい」

シートに乗り込んだ主任に、先程まで着ていた上着はない。そして私の膝を、主任の着ていたジャケットがほんのりと温めてくれていた。

「主任が風邪ひきます!」

返そうとするが、「そんなにやわじゃない」と素っ気なく返ってきた。

「じゃあ……お言葉に甘えます」

私は下を向いたままそう答えた。膝がさっきの背中みたいに温かい。

窓側に頭を寄せて、ぼんやりと横目で窓の外を眺める。と言っても、街灯などほとんどない田舎道。揺れに身を任せていると、いつのまにか私の瞼はくっついていた。


──遠くで子どもの泣く声が聞こえる。

『与織子の大根さんの葉っぱ踏んでる!』

あれは、まだ小学校に上がる前くらいだったと思う。初めて畑の一角を自分専用にしてもらえて、私は大根の種を植えた。毎日毎日様子を見に行って、ようやくポツポツと芽が出て、少し大きく育ったころ。目の前でそれを無惨に踏まれてしまったのだ。

大泣きした私を、困惑しながら抱き上げて慰めてくれたのは……誰だったんだろう?

いっちゃん? ふう君?

私はウトウトとしながら、そんなことを思い出していた。
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