貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「泣かないでくれ。俺はお前に泣かれるのに弱い」

逃がさないとばかりに主任の腕に収められている自分の姿を想像すると、涙が引っ込む代わりに顔どころか体が熱くなる。でも、何を言っていいのかわからなくて、私は口をつぐんだままでいると、主任が身動ぎする気配がした。

「今は……言えない。だが、ちゃんと説明するから。それまで待ってくれないか?」

力なく言う主任は、今どんな顔をしているのだろうか?

そんなに喜怒哀楽を出すほうじゃないのは知っている。会社ではいつも仏頂面だ。けど、時々笑ってくれるようになって、私はそれが嬉しかった。でもきっと今は、悲しませているんじゃないかって思った。

「……わかりました。待ちます」

私はそれだけ口にする。もう私にできることと言えばそれしかないのだから。

主任は安堵したように息を吐くと、腕を緩めた。急に温もりが遠のき背中を冷たい空気が撫でると、私は思わずクシャミをしてしまった。

「風邪ひくぞ? 車に乗って」 

そう言うと主任は私の腕を引いた。決まりが悪くて顔を上げられないまま車の助手席のドアまで連れて行かれる。私は素直にそこに乗り込み、またシートベルトをしていると、開きっぱなしだった運転席側から、バサッと何かが降ってきた。
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