貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
入社式は、ビル内のグループ会社を合同と言うだけあってそれなりの規模だった。
どこかの会社の社長の挨拶に始まり、列席している会社の社長の紹介もあった。もちろん自分の会場の社長もそこにいたが、遠くてあまり顔は見えなかったし、正直そう興味はなかったりする。社長なんてそう会う相手でもなさそうだし。
すでに今までの話が長過ぎてぼんやりとしてしまっている頭で、私はそんなことを考えていた。
ようやくそれも終わり、残るはどこかの会社の先輩社員からの祝辞と、新入社員代表の決意表明だ。

相手には申し訳ないが、じっと座っているのも久しぶりで、もうそろそろ限界だよ……と遠い壇上に視線をやって、私は見間違いかと目を擦った。

ん?んん?

和かに祝辞を述べ始めたのは、見紛うことのない自分の兄、みー君だった。

言ってくれたら良かったのに……

呆然と前を見ていると、隣から桃花ちゃんがこそっと耳打ちしてきた。

「あの人カッコいいね。どこの会社なのかな?」

やっぱり、身内以外が見ても格好いいのか……と思いながら「う、うん……」と生返事で答えた。

そしてみー君は祝辞を終えて、横文字だらけの社名の次にこう言った。

「執行役員、朝木実樹」

そこで小さくざわめきが起きる。まさか誰も、この見た目フンワリ系のそう年も変わらなさそうな先輩社員が『役員』と付く立場だなんて思ってなかったのだろう。
 と言うか私もだ。

「聞いてないよ……みー君……」

 私は口を開きっぱなしにして、みー君が去って行く姿を見送っていた。
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