貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「とにかく、そんな話はあと! 与織は、あっちな?」

照れたように顔をほんのり染めているふう君は、細い通路を指差す。

「あの奥が、前のステージに繋がってる。とりあえず、そこへ行け」

そう言ってふう君に背中を押される。

「えっ?」

私が戸惑っていると、ふう君は笑顔で「ほらっ! いいから、早く!」と私を促した。

私は、恐る恐る奥へ向かう。
壁の向こう側からは、マイクで何か話しているのが聞こえてくる。でも何を話しているのかまでは聞こえない。
私はとにかく、言われた通りに奥へと進んだ。ステージに近くなったのか、その先が明るくなってきた。

私は、さっきまで会場内で専務を探していた。みー君は詳しい事情は知らなかったと思う。家族と別れて専務を探そうとする私を、特に不審がることもなく『一緒に探すよ』と言ってくれた。

それは、見つけ出して何か言いたかったわけじゃない。いないことを確認して、安心したかったから。もし、その姿がここにあるのを見つけてしまったら……。この人はここにいない、と言うことになってしまうからだ。

視線の先、暗がりに立つその人を見て、私はそんなことを思っていた。

ホッとしたように表情を緩めて、私に向かって真っ直ぐ歩みを進めるその人を、私も真っ直ぐに見つめた。
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