貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「訪れたのはそのときが2回目。1回目は与織子を泣かせてしまったときだ。2回目は、平日の昼間だったし、与織子はいないだろう、と思っていた」

確かに、就職して創ちゃんに再会するまで、私の記憶では会ったのは1度きりだ。私は昔を思い返しながら、創ちゃんの顔を見る。もう瞳は閉じられ、口だけが動いていた。

「着いてから、俺は与織子と会った畑が懐かしくなって、まずそっちを見に行ったんだ。いったいどうなっているんだろうかと」

私が高校のころを思い返す。いや、たぶん、今もそこは変わらないはずだ。子どもの頃からの私の庭。私の菜園。そしてきっと、12月なら……。

創ちゃんも思い出しているのか、ふふっと息を漏らし口元を緩めた。

「立派な大根畑になっていて驚いたよ。あんな小さな葉が、こんなに大きくなるのかって。そしてそこに、それを楽しそうに収穫している与織子がいた」
「そんなところ、見られてたの?」

秋に蒔いた大根が収穫できる時期。そういえば、毎年期末試験休みのあたりに収穫してたっけ? と思い出した。

「そう。お前はキラキラしてて、とにかく楽しそうだった。それを見て、俺は思ったんだ……」
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