貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「あれっ? 与織子ちゃん!」

私は、あんまり会いたくなかったなー……と思いながら「お疲れ様です。専務」と頭を下げた。

専務には申し訳ないが、ニコニコしながら私を見ているその顔は、いつもながら胡散臭い。鈍感な私でさえ、何か裏がありそうだなって感じてしまうのだから。

「与織子ちゃん、連休の谷間なのに出勤だなんて。川村にこき使われてるんだね。可哀想に」

いつものように主任を敵視するような発言をしながら、専務はその主任がいないのをいいことに私を名前で呼ぶ。主任が側にいれば、間違いなく冷たい視線と「セクハラです」の言葉が主任から浴びせられたに違いない。けど、残念ながら今主任はここにはいないのだ。

「えっと、そんなことは……。休んでもすることないですし、今日は忙しいでしょうから私から出勤を願いでたんです。それに金曜日はお休みをいただくことになってます」

私が引き攣りながら何とか返すと、専務は「へー」と半分興味無さそうに口にした。そして、急に明るく表情を変えると私に少し顔を近づけた。

「連休中は何か用事ある? どこかご飯でも食べに行こうよ。フレンチ? イタリアン?」

そう言って専務ににじり寄られ、私は後退る。

「え、や、あの。よ、用事あります」
「え~? 1日くらい空いてるでしょ? それとも彼氏でもいるの?」
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