室長はなにをする人ぞ
しばし無言でパソコンに向かう。電話も鳴らない静かな時間帯だった。

メーカーへ見積もり依頼のメールを作成する。
手を動かしながらも、頭のすみでは泉邸の色の謎を考えてしまう。
ミステリー小説に出てくる名探偵たちは、こういう時どうやって天啓を得るんだろう。

わたしの脳裏にひらめきが訪れることはなく、時間だけが過ぎていった。

「wild gooseの尾ぐらいは見つけたいものだな」
デスクチェアにかけたままかるく伸びをして、五嶋さんがつぶやく。

「なにも分からないと悔しいですね。ずっと考えてるんですけど」
五嶋さんでも難問なのだから、わたしに解けるわけがないか。
それでも少しでも役に立ちたいと思わずにいられない。

ありがとう、と思いがけない五嶋さんの言葉に、小さく目を見張ってしまう。

「そうやってひたむきに頑張ってくれる早川さんのおかげで、ずいぶん助かってるよ」

わたしには過ぎた評価だった。
「いえそんな、わたしはなんの知識もないし、まだ分からないことだらけで…」
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