ミーリア国戦記〜癒しの姫は、仲間たちと王国を守り抜く〜

二度目の戦場


 そしてさらに行軍を続けた私たちは、遂にロズモンドの国境を見下ろす丘の上に、軍旗を立てた。

 私は白銀に輝く戦鎧を身に着け、自分の馬にまたがった。その周囲を、馬に乗ったベルナルドとゲンジ、そしてレイアとキリカさんが守るように囲んでくれる。
 そして私たち5騎は、勢揃いした軍列の前に進み出た。

 森の向こうに潜んでいるはずのロズモンド軍は、不気味な沈黙を保っている。
 でも私たちは、キリカさんの潜入偵察とベルナルドの『望気の術』で、私たちを待ち受ける敵の情報を詳細に掴んでいた。

「敵の数はおよそ4万、この地域を守るロズモンドの守備部隊のほとんどが集まって来ている。敵の中央軍や親衛隊の姿は見えなかった。ただ……」

 キリカさんの報告に、ベルナルドが言葉を重ねた。

「この大気いっぱいに漂う妖気からして、敵にはかなりの鬼どもが混じっているようです。気配から察して、さほど上級の魔物はいないでしょうが」

「その通りだ。森の暗がりの中に、おびただしい数のオークやゴブリンどもが潜んでいる。数は数えられなかったが、千や2千ではないだろう」

 キリカさんの言葉を聞いて、ゲンジが口を開いた。

「姫君にご同行いただいて、正解だったということか。リヴァイ王子やハヴェル卿といえども、鬼どもには手こずるでしょうから」

 そして私を見つめる4人に、私は小さく頷いてみせた。

 わかってる。
 最初に私が、敵に向かって『癒しの風』を解き放つ。それが戦いの合図。
 女神ハリーファさまの力を受けたその魔法は、回復魔法でありながら、その風に触れた魔物を一瞬で消し去るだけの威力がある。

 竜とか悪魔とかの上級魔物に、どこまで通用するかはわからないけど、この森に潜むオークやゴブリンなら、森から一歩も出られないまま粉々に砕け散るだろう。

 呼吸を整える私の腰元から、「にゃあ」と小さな声がした。
 視線を落とすと、ヴァールが腰袋から顔を出して、蒼色の瞳を私に向けていた。

(大丈夫だよ、ヴァール──)

 戦場には朝靄が立ちこめていた。

 幾重もの列をなす将兵たちは、今は無言で私の姿に注目している。
 リヴァイも、ハヴェルも、ドーリアさんも、アルブレヒト王子とヒサーヌ王子も……。

 何万もの視線を浴びながら、私は馬を進め、そして軍勢の先頭に立つと、大きく腕を拡げ、言祝を紡いだ。
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