初恋の味は苦い
612のベルを鳴らすとすぐに祥慈はドアを開けた。

祥慈もシャワーを浴びたばかりらしく、髪がぺシャンと目元に下りていた。
かなり幼く見える。高校生みたいだ。

モノが少ない洗面台を前に髪を乾かす。
乾かしながら、これが終わったらちゃんと私は部屋に戻るんだ、と自分に言い聞かせていた。

期待をしないように、まっすぐ、ちゃんと部屋に戻る。

ふと、私は何を期待してるんだろう、と考える。

さっき、フロントに電話すればいいものを、何故私は祥慈に頼ったんだろう。そこに答えが出ていることは自分で分かっていた。

下心。

髪が大体乾いて、私はドライヤーを消した。

スマホとカードキーを再び手に取って、バスルームから少し顔を出す。

祥慈はベッドに腰掛けてバラエティー番組を見ていたらしく、私に気付いて視線を向けてきた。

表情は変わらず、ジッと私を見る。

「ここおいでよ」

祥慈がポンポンと、彼が座ってるその隣を叩く。
私はバスルームから出て、そこに座る。少し左腕が祥慈の腕に当たるけど、お互い気にしてないフリをする。

「来ちゃうんだね」
「おいでって言ったじゃん」
「でもそんな簡単に来るなんて思わないじゃん」

私の乾かしたばかりの、ほんのりとまだ熱がこもる髪の毛先を少し手に取る。

そこに神経は通ってないはずなのに、なんとなくくすぐったい。

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