初恋の味は苦い
「来ちゃダメだよ」
「なんで」
「ダメでしょ」
「私とは何もないってこの間言ったじゃん」

都合のいい女ってこうして始まるんだろうか。

祥慈が物欲しげな目で私を見る。

そしてそっと私の後頭部に手を添えて引き寄せた。私はそのまま祥慈の手に頭部を委ねるように、力を抜く。

ゆっくりと祥慈の顔が近くなる。

祥慈は触れる程度に唇を重ねた後、しっかりと押し付けてきた。鼻の頭が当たりそうになって、顔の角度をずらしてくれる。

私の唇をゆっくり味わうように何度も何度も繰り返す。

そうだ、こんな感覚だった。

私はただまな板の上の鯉のように、その場に座り込んで、そんな私に何度も祥慈がキスを重ねる。

少し顔が離れて、祥慈はぼんやりとした目で私の唇を見つめる。

「どこまでしていいの」

その顔が意外と真剣で、そこで初めて私は自分の今の立場を俯瞰した。

私はこのまま祥慈とどうなりたいんだろう。
どういうつもりで、この部屋のこのベッドの上に座ってるんだろう。

黙り込む私を祥慈はゆっくり寝かせるようにそっと倒し、お腹の上に跨ぐようにして私を見下ろす。

ごくっと音が聞こえそうなほど、祥慈の喉仏が大きく上下した。

そしてゆっくりと私の上に覆いかぶさってくる。首筋にキスをしてくるのを、私はただ静かに受け入れた。

明日のこととか、これからのこととか、冷静に考えられていればここで止められてたのかもしれないけど、この時の私は目の前の祥慈がただ欲しくて、そこまで考えることができなかった。

私は初めて、祥慈とそのまま最後まで過ごした。

私にとっての初めては祥慈だった。
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