初恋の味は苦い
「俺、このまんまだと普通にやりたくなるんだけど」

トロンと笑った目で祥慈が言う。
私はその目を見ながら頷いた。
祥慈は私の髪をゆっくりと撫で下ろす。撫でながら、もう一方の手は私の背中に当ててキスをくれる。その手はアイスを食べて少し冷えた私の体をじんわりと温める。

「ねえ」と少しキスをやめた。

「ねえ祥慈」
「うん」
「すき」
「うん」
「私、たぶん祥慈のことすき」
「うん」

祥慈は少し困ったような顔に変わる。
なんで失恋すると分かってて、私はこんな風に言ってしまうのか、自分で自分が分からなかった。

「俺もりっちゃんが好きだよ」

そう言う祥慈の顔は曇ってる。
その先の言葉を祥慈は言ってくれない。

なんで私たちは付き合えないんだろう。

「でも」と祥慈の手が私の背中で止まる。

「それ以上でもないんだよね」

もう今にも祥慈の顔は泣き出しそうで、そんなことを言わせてるのは私だと私は自分を責めた。
本当なら言わせなくても良いことなのかもしれない。

「りっちゃんはなんで俺のこと好きなの」

そう言って髪を撫でる。
こういう瞬間が私はただ好きだった。理屈ではなく。

< 58 / 68 >

この作品をシェア

pagetop