結ばれないはずが、一途な彼に愛を貫かれました ~裏切りと再会のシークレット・ベビー・ラブ~
 アルベルトのいる場所から離れたかった。馴染みのある白い石畳の道は、かつてはアルベルトを慕って歩いた散歩道だ。だが今は、彼から逃げ出したかった。もう、こころを揺さぶられたくはない。

(子どもがいたから、ローズを妊娠させたから結婚したのではないの? だから私、あなたの前から逃げ出してきたのに。私とは違う人を愛しそうに見るあなたを、もう二度と見たくなかったから逃げたのに!)

 カーブを曲がった先の木の下まで来ると、ソフィアは木の幹に片手を添えた。もう、涙を止めることができなかった。ソフィアの瞳からは、とめどなく涙が流れる。こんなにも泣くのは、アルベルトに捨てられた時以来だった。

(彼は、アルベルトはどうして——、どうしてまた私の前に現れたの?)

 アルベルトは当時と同じ紺碧の瞳でソフィアを見つめてくる。だが、彼は自分を捨てた男だ。もう、二度とこころを許してはいけない相手だ。なのに、どうして……、どうして彼はソフィアを愛おしそうに見つめてくるのか。

 もう、ここにはいられない。これ以上ここにいたら、きっとまた彼に傷つけられてしまう。アルベルトに見つかってしまった以上、彼の記憶が戻る前にリヒトを連れてこの街を出て行こう。きっと、きっと次の街でも何とかなる。リヒトももう五歳になったのだから一人でお留守番もできるかもしれない。寂しい思いをさせてしまうだろう、でも——。

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