姉に婚約者を寝取られたので訳あり令息と結婚して辺境へと向かいます~苦労の先に待っていたのは、まさかの溺愛と幸せでした~
苦しそうな表情をしているマーサを心配させないようにニコリと微笑んだ。
マーサも此方の心情を察してくれたのだろう。
これ以上、何も聞かれることはなかった。

その事に安堵している自分が居た。
やはりまだ何かがある度にフレデリックを思い出してしまう。

マーサに話を聞きながら、懸命にメモを取っていた。
想像以上に、自分でやらなければならない事は多そうだ。
彼女の話が丁寧で分かりやすい事が救いだろうか。

その後、部屋に案内してもらった。
以前の部屋よりずっと狭いけれど、とても落ち着く場所だと思った。

少ない荷物を置いて、整理していく。
部屋の中にはシングルのベッドが一つ。

ゼルナの話をマーサから聞いて、同室は有り得ないだろうと思っていたが、やはり想像通りのようだ。
けれど、まだ気持ちの整理がつかない今の自分にとっては何よりも有難い事だった。

新しい場所で、何事もなく新しい生活が始まっていく。

(……早く馴染めたらいいな)

不安と期待が混在していた。

ふと、鏡に自分の姿が映る。
以前のように椅子を引いてくれる侍女は居ない。
自分で椅子を引いてから腰を下ろした。

毎晩、静かに泣き腫らしていた目元にはほんのり赤みが残っている。


「ふふっ……酷い顔ね」


思わず笑ってしまった。
最近は食事も喉を通らなかった。
当然のように話しかけてくるジャネットの顔を見る度に、嫌な気持ちが込み上げてきたからだ。


「大丈夫……きっと、上手くいく」


言い聞かせるように呟いた。
胸を押さえてホッと息を吐き出した後に、無理矢理笑顔を作った。

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