姉に婚約者を寝取られたので訳あり令息と結婚して辺境へと向かいます~苦労の先に待っていたのは、まさかの溺愛と幸せでした~
暫くの沈黙の後、指をモジモジと動かしていたゼルナが静かに口を開いた。


「……ぃ……ない」

「え……?」


小さくてもハッキリと伝わる拒絶の意志。
こんな時ばかり耳は音をよく拾ってしまう。

ゼルナは此方に聞こえていないと思ったのだろう。
再び唇を開こうとした時だった。


「ーーいら、」

「マーサァアアァァッ!帰ったぞ」

「!!!?」


扉からすごい勢いで邸に入ってきた男性の突き抜けるような声に目を見開いていて固まっていた。
口から心臓が飛び出そうなほどにバクバクと音を立てている。


「久しぶりの我が家だ……!なんて素晴らしい」

「…………」

「おぉ、ゼルナ!!相変わらず辛気臭い顔をして!!!ハッハッハッ」

「…………うるさいよ、父さん」

「おや……?? 」

「ひっ……」


父さん……つまり今、目の前にいる陽気な人がマルカン辺境伯だ。
いつも見ている辺境伯とは、大分雰囲気が違うなと考えていると、パッと視線が交わった。
迫力のある表情に、ゴクリと唾を飲み込んだ。

そのままグイッと顔が近付いてきて、思わず涙目で仰け反ってしまう。
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