姉に婚約者を寝取られたので訳あり令息と結婚して辺境へと向かいます~苦労の先に待っていたのは、まさかの溺愛と幸せでした~
(気に入らないって言われたら……?話が伝わってないって事はないわよね。だって判子は押してあったもの!それに…………もし出てけって言われたらどうしよう)

マルカン辺境伯に嫁いで来てから、顔を合わせるのは初めての事だった。
震える手でマーサと共に食事の準備を進めていた。
いつもより緊張しているのが分かったのか、マーサは何度も「絶対に大丈夫ですから」と言って励ましてくれた。

辺りが暗くなった頃……ゼルナがブルと共に屋敷に入る。
毎日、同じ時間に屋敷の中に入ってくる事が分かっていた。
ドキドキとする胸を押さえながら深呼吸をしていた。

(ゼルナ様……御一緒してくれるかしら)

偶然、食事を共にする事はあったが、こうして自分から誘う事は今までなかった。

玄関に顔を出すと、ブルが嬉しそうに尻尾を振りながら側に来る。
頭を撫でながらゼルナに声を掛けた。


「あの……ゼルナ様」


名前を呼ぶと大袈裟な程にゼルナの肩が大きく揺れた。


「き、今日は……マルカン辺境伯が帰ってくると聞きました」

「………」

「それで……その」

「………」

「一緒にお食事をするのは、如何でしょうか……?」


ブルが固い空気に気付いたのか、二人の間を行ったり来たりと往復している。
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