【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

「香菜さん、はじめまして。拓実の祖母の小笠原 珠子(たまこ)と言います。拓実ったらあまりプライベートの事を話さないもんだから、ご挨拶が遅れちゃってごめんなさいね」

「あ、あのですね。私は」

「うっ……う、うぅ……」

すすり泣く声。急におばあちゃんがハンカチで目を押さえながら泣いている。

嘘でしょ。おばあちゃん泣いちゃってるんですけど。私、おばあちゃんの涙だけはものすごく弱い……

「……ごめんなさいね。急に泣いちゃったりしたら困らせちゃうわね。でもこの子達ったらもう結婚しないんじゃないかって少し諦めていたから、拓実だけでも結婚してくれて本当に嬉しいの。香菜さん、不器用な拓実だけどこれからよろしくね」

「だからおばあさん!彼女はですね、私の嫁では」

「お任せください!私の方こそよろしくお願いします」
私は思いっきりの笑顔でそう答えた。

小笠原さんは、豆鉄砲にでも食らったような顔をしている。

そりゃそうだろう。さっきまで思いっきり訂正しようとしていたのが、花嫁でもないのに相手の親族にこんな返事をしてしまったのだ。
この時の私はおばあさんの涙に感激してしまったのと、いつもの小笠原さんにちょっとした悪戯心をつい出してしまっていた。

多分、あとで本当の花嫁がやってきて私が事情を説明すればちょっとした余興で済むだろう……と。

こんな安易な考えがあとで自分の首を思いっきり絞めることになるとは、この時は微塵も思っていなかった。

「だからおばあさん!この女性は私の」

「はい。ご両家共揃ったところではございますが、そろそろ花嫁様と花婿様の最終仕上げが残っておりますので。お二人共別室に御移動よろしいでしょうか」

小笠原さんの言葉を遮ったのは腕時計をチラチラと気にしながら近くに待機していたスタッフ。
どうやら、時間が押してきているのであろうか。

でもいつもの小笠原さんらしからぬ慌てぶり。

おまけにさっきから話すタイミング悪いし、なんか今までの鬱憤が少しは晴れた気がする……これで香菜さんという花嫁が戻ってくればこの茶番も終わり。

小笠原さんと私はスタッフに連れて行かれるがまま、別室に移動させられた。
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