【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
別室で二人っきりになった私達は気まずい雰囲気をお互い醸し出していた。どちらが先に第一声を上げるか変な緊張感でいっぱいだ。
しばらくしてその緊張感を打ち破ったのは小笠原さんだった。
「優木さん。なぜあなたはこんな所にいるんです?いや、そんなことよりさっきの祖母への返答は何なんですか」
「あの私、祖母に育てられていたので昔からおばあちゃんの涙には弱くってつい……。それに香菜さんでしたっけ。小笠原さんのお嫁さんもすぐ戻って来るだろうし、ちょっとした余興と言いますか」
そこまで言った私に小笠原さんは深い大きな溜息をついた。いや、いつもより呆れた感じの溜息と言ったところか。
でも、なにもそんなに呆れなくたっていいじゃない。冗談もわからない男は嫌われますよ─
「…………れた」
小笠原さんが何かに耐えているような形相でボソッと小さな声で呟いた。いや、小さすぎて聞こえないんですけど。何?なんて言ったの?
「あの─小笠原さん。もうちょっと大きな声で」
「だから!ドタキャンされたんだ!」
さっきとは打って変わって大きな声だ。ちょうど良い音量で話せないのかしら。ドタキャンでしょ。
ドタキャン……ドタキャン?……はぁ!ドタキャン?!
ドタキャンって花嫁が結婚式当日に逃げちゃったってこと?
小笠原さんは私に知られて屈辱だったのか苦い顔をしている。
「な、何言ってるんですか─。小笠原さんでも冗談言えるんですね、かなりビックリしちゃいましたよ─」
とりあえず笑って誤魔化そう。
「……本当のことだ」
マジか。
「とりあえず、優木さんのことは僕からちゃんと家族に伝えておくし、もう出て行ってもらって構わないから」
そりゃ、私じゃどうすることもできないし、ここにいたって仕方ないけど。
あとは小笠原さん達の問題なのはわかるけども。
知らなかったとはいえ私は何てことを言っちゃったんだろう。
「おばあさんに余計なこと言ってごめんなさい……」
後悔の念に駆られながら部屋を出て行こうとした時「優木さん」と呼び止められた。
「なぜこうなってしまったのかはわからないけど、別に優木さんのせいじゃないですから。反対にこっちも色々巻き込んでスミマセン」
ム──……自分の眉間にシワが寄った。なんとも言えない複雑な気分。
──小笠原さんのほうがこれから大変なことになるはずなのに。なにか皆が納得できる方法は……
よせばいいのに、私のお節介魂がまた少しずつ出てきそうな予感がした。
“コンコンコン”
その時、誰かがドアをノックした。