【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

「だからって優木さんが……」

そこまで言うと、小笠原さんは腕を組みながら何かを考え込んでしまった。

「それに本当は当日急遽入院しちゃってたとかで色々理由をつければ、香菜さんが戻ってきた時、香菜さんに対する小笠原さんの家族からの印象も少し和らぐのではないかと」

この時、漫画家であることが少しは役に立つ。これからの展開を多少は思いついたのだ。採用されるかは別だけど。

小笠原さんには言えないけど正直、こんなことをした香菜さんは許せない。けど家族が悲しむのはもっと見たくなかった。

あ─あ……なんで私、他人のことでこんなに一生懸命になっているんだろ?

"コンコン"

「小笠原様、百田様。そろそろ御準備をしてもよろしいでしょうか」

「ちょ、ちょっと待ってください!」
スタッフさんが来てしまった。
どうする。小笠原さん!

はぁ─。と今度は軽い溜め息をついた小河原さんは、レンタルお義父さんの方に歩いていった。

「あの……申し訳ないんですがこのまま香菜の両親として式に出席してもらってもいいでしょうか。彼女、優木さんが香菜として挙式に立ちますので。あとすみませんがこのことは内密に」

そう言うと、少し考えたレンタル両親からOKをもらい二人はその場を後にした。

二人が出て行ったのを確認した小河原さんは、私の方に顔を向け黒縁メガネをクイッとあげながら歩み寄ってきた。

「優木さん。もしかしてさっきの祖母への返答、私への嫌がらせであんなことを言った……なんてことはまさかないですよね?」
え、なぜ今さらそんな話……っていうかすべてお見通しされている。

「ま。まさかですよ─。私はおばあさんの涙につい打たれてしまってぇ」
怖い。それになんか小笠原さん、微笑んでるし─

「知ってました?挙式には誓いのキスというものがあるんですが、それも了承したということでいいんですよね?」

「へ?」
間抜けな声が出た。誓いのキス?情けないことに全く考えていなかった。

その時、小笠原の顔が目の前まで近づいてくる。これが壁ドンか?
でもクソッ、悔しいがやっぱりイケメンだ!

「誓いのキスは新郎が花嫁にするんです。どこにするかは新郎次第ということで。……さぁて、どこにしようかな」

そう言って小河原さんはスタッフを呼びに行ってしまった。

あの人、他人をいじめることを生き甲斐にしていない?

私は……怖いと思いながら不覚にもドキドキしてしまった。
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