童話書店の夢みるソーネチカ
 表紙の中央にはきらめく青いドレスを身にまとったシンデレラ。

 片方のガラスの靴を落としながらも必死に走っている様子が描かれている。背景はどうだろう。
 
 彼女の周りはアーチ状に花々が囲み、舞台のカーテンを思わせる。

 シンデレラの奥にはヨーロッパ建築の背の高い城もうっすらと見えた。

 ……表紙には映ってないけど、追いかけてくる王子様から急いで逃げているんだよね。夜の十二時になると魔法が解けちゃうから。

 アニメ調の絵ではなく、繊細で美しい画風に千花も目を奪われた。

 だんだんとその絵に吸い込まれているような、心地よい浮遊感に浸食され、瞬きも忘れる。  

 あまりに反応がないので、柳木は一歩踏み込んで千花の顔を覗き込んできた。

 鋭くも整った容貌が拳三つ分の距離に迫り、夢うつつの意識をぱっと覚醒させる。  

 慌てて後退しても、もう手遅れだ。

 私どんな顔してたんだろ……。

 じわじわと頬が熱い。  

 魔法にでもかけられたみたいだ。絵に見惚れて何も考えられないなんて、そんなことってある?

 芸術の深淵に体を落っことして靴だけが残ったみたいだ。
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