妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「……ところで東宮さま。姉は――――姉さまは元気にしておりますか?」


 そうしてわたしは、憂炎に一番尋ねたかったことを口にした。

 憂炎は紅色の瞳を少しだけ見開き、それから穏やかに細める。先程までとは違うどこか妖艶な空気を感じて、わたしは思わず息を呑んだ。


「もちろん。毎日元気に過ごしているよ」

「そうですか……! それは良かった」


 言いながら、わたしはホッと胸を撫で下ろす。

 後宮に入って2ヶ月。華凛からは未だに手紙が来ていない。便りが無いのは元気な知らせというけど、正直わたしは華凛のことを心配していた。望んで入内したとはいえ、後宮内には色んな柵があるらしいし、『凛風』として振る舞う以上、憂炎との距離の取り方も難しかっただろう。何と言っても、わたしは入内を拒否していたのだから。


(でも、この様子なら、わたしたちの入れ替わりはバレていないみたい)


 それに華凛のことだから恐らく、妃としての務めもきちんと果たしているのだろう。先程の憂炎の雰囲気からもそうと察せられた。


「――――姉さまが元気で安心しました。本当は直接話が出来ると嬉しいのですが……」


 華凛が後宮を出ることはできない。簡単に出入りを許可すれば、妃が密通をする危険性があるからだ。もっと悪ければ、不義の子が皇子と偽って育てられる可能性だってある。だから、わたしたちが会話を交わすことは恐らく困難だろう。そう思ったのだけれど。


「構わないよ。許可を出すから、近々会いに行くと良い」


 予想に反し、憂炎はやけにアッサリと面会を許可してくれた。俄かには信じられず、わたしはそっと身を乗り出す。


「本当に、良いのですか?」

「もちろん。暇をしているようだし、行って元気づけてくれると俺も嬉しい」

「嬉しい……! ありがとうございます」


 微笑みつつ、わたしは心の中でガッツポーズを浮かべる。


(良かった! 手紙だと誰かに見られたらマズイもの)


 聞きたいこと、話したいことが山ほどある。


(だけど、一番聞きたいのは……)


 憂炎は未だ、わたしの手をギュッと握っている。
 華凛に会えたら、憂炎との関係――――距離感について色々と聞いておこう。そう心に決めたのだった。
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