妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「今日は初日だから、城の中を見て回ろう。今後、色々な部署に遣いに行ってもらうだろうから」


 そう言って憂炎はゆっくりと立ち上がる。どうやら自分も一緒について回る気らしい。わたしの手を握ったまま、立ち上がるように促してきた。


「まぁ……! お心遣い、ありがとうございます。けれど、東宮さまのお手を煩わせるわけには参りませんわ。ただでさえ公務が立て込んでいらっしゃるのです。わたくしの案内は他の者にお任せ下さい」


 そう言って微笑みながら、わたしはやんわりと憂炎の手を退ける。


(いや、マジで何なんだよ憂炎のやつ)


 出迎えの時だけでなく、憂炎のわたしへのちょっかいは凄まじかった。
 奴は当たり前のように隣に腰掛けたかと思うと、馴れ馴れしく頭を撫で、腰に腕を回し、挙句の果てに指を絡めてきた。繰り返しになるが、こんなこと、わたしが『凛風』の時にはされたことがない。


(こいつ、妃になれって言う人間を間違えたんじゃない?)


 心の中で悪態を吐きながら、わたしはそっと憂炎を睨みつける。

 初めから憂炎が華凛を妃に指名していれば、こんな面倒な事態に陥らなかった。わたしはわたしのまま、華凛は華凛のまま、好きなように生きることができた。そう思うと、憂炎に対して、怒りにも似た感情が込み上げてくる。


「そうか。――――仕方がない。もっとお前の側にいたかったが、明日からは毎日一緒だしな」


 憂炎はそう言って目を細めて笑うと、わたしの指先にそっと口づけた。その瞬間、身体中の毛がゾワリと逆立つ。


(憂炎の奴~~~~~~! 女を口説くなら後宮でやれ!)


 心の中でこぶしを突き上げながら、わたしは必死に怒りを抑える。
 後宮内なら、妃だろうが宮女だろうが侍女だろうが皇族のものと相場が決まっている。口説き放題、手出しし放題だ。今のところ、妃は『凛風』一人らしいが、そんなに女好きならとっとと増やしてしまえば良いと切実に思う。


(あり得ない。マジで、本気で、あり得ない)


 ニコニコと楽しそうな表情の憂炎を見つめつつ、わたしはゆっくりと深呼吸をする。ここで気持ちを落ち着けなければ、近い将来正体がバレてしまう。眉間に皺が寄りそうなのを必死で我慢し、わたしはニコリと微笑み返した。
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