妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
(凛風なら、遠慮なく個人情報を聞きまくるんだけどなぁ)


 自分とは全く異なる何かを持っている白龍に興味がある。だけど、淑女である『華凛』はそういう行動を慎むので、わたしも我慢するしかない。


(あぁ、面倒くさい……『凛風』としての自分に戻りたい)


 そう思うと、重ね重ね、憂炎のことが恨めしくなる。あの涼し気な――――寧ろ燃えるような不思議な瞳を、手のひらで覆い隠してやりたくなる。


(憂炎の奴……これだけ『華凛』を溺愛してるんだ。今からでも遅くはないから『凛風』と離縁してもらえないだろうか)


 そうすれば凛風は無罪放免。憂炎は『華凛』を妃にして、わたしたち姉妹は本来の自分に戻ることができる。みんなが自分の望むように生きられるし、ウィンウィンじゃなかろうか。


(いや……待って! それ本当に良くない⁉)


 己の発想に感動しながら、わたしは心臓を高鳴らせる。

 このシナリオが上手くいくなら、わたしはわたしとして、華凛は華凛として、幸せを掴むことができる。誘導尋問とか誘惑とか、色々と工夫は必要だけど、ローリスク・ハイリターンの賭けだから、試してみる価値は十分にあるだろう。


(でもなぁ……華凛が憂炎と上手くやってるなら、この作戦は上手くいかないかも)


 『凛風』が既に妃としての地位を確固たるものにしているなら、『華凛』は姉の夫である東宮を誑かした悪女という汚名を着ることになる。本当の華凛のためにも、そういったことは何としても避けたい。


(――――というか、『どちらも妃に』とかいう話になったらいよいよ逃げ道が無くなってしまう)


 すべては後宮に行って、華凛に話を聞いてからだ。もしも二人が上手くいっていないなら、わたしは『華凛』として、全力で憂炎を落とせばいい。

 心の中でほくそ笑みながら、わたしは憂炎の去っていった方角を見つめる。


「――――主も主だが、お前も相当だな」

「へ?」


 その時、部屋の隅から何やら声が聞こえた気がした。だけど、白龍は淀みなく手を動かしているし、こちらを気にするような素振りは一切ない。


(空耳か)


 そう結論付けて、わたしは己の計画がもたらすであろう今後の展開に、ドキドキと胸をときめかせるのだった。
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