妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

6.華凛のお願い

(ここが後宮かぁ)


 まるで京の中にもう一つ街が存在しているかのような豪奢で荘厳な宮殿。季節の花々が咲き誇る美しい庭園に、知らずため息が漏れる。
 これでも、本殿――――現皇帝の後宮からは離れているというのだから信じがたい。


(まぁ、わたしは一生行くこと無いだろうけど)


 現皇帝の後宮には恐ろしいと噂の皇后がいる。そうじゃなくても、この世の中で女同士のドロドロほど面倒で嫌なものはない。


(関わらずに済むならそうするのが一番だ)


 出来れば華凛にもそうして欲しいと、わたしは密かに願っていた。


「こちらの宮殿でございます」

「ありがとう」


 案内役の美しい宦官に礼を言って、わたしは中へと進んでいく。



「お嬢様!」

「お久しぶりです、華凛さま!」


 宮殿に入るとすぐに、懐かしい顔ぶれがわたしのことを迎え入れてくれた。華凛に付いている侍女達は、殆どが実家から連れて行った少女たちだ。入内をしているのは『凛風』ということになっているため、彼女たちは当然、元々はわたし付の侍女である。


(あぁ……懐かしい! 可愛いっ! 本当は駆け寄って抱き締めたい!)


 けれど、そんな些細な願い事も、華凛として存在している今、叶うことは無い。うずうずする身体を抱き締めながら、わたしは恭しく挨拶をした。


「いらっしゃい。久しぶりね」

「かっ……姉さま!」


 己と同じ声音に声を上げれば、そこには華凛が立っていた。
 入内前とは比べ物にならない豪奢なドレスと装飾品を身に纏い、綺麗に紅を引いた妹は、まるで別人のように見える。思わず言葉を失いながら、わたしは深々と礼をした。


「元気そうじゃない。安心したわ」

「はい、姉さまも……!」


 華凛はわたしが言いたいことを、わたしが言いたい通りに喋ってくれる。それだけで本当の自分に戻れたような気がして、わたしはとても嬉しかった。


「少しの間、華凛と二人きりで話したいの。皆、席を外してくれる?」


 華凛にはそんなことまでお見通しらしく、侍女たちに声を掛けてくれる。
 すると、侍女たちは一斉にいなくなり、部屋にはわたしと華凛の二人きりになった。しばしの沈黙。それからわたしたちは、ゆっくりと顔を突き合わせた。
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