妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「失礼いたします」


 その時、侍女の一人が現れた。彩鮮やかな数種類の菓子に、湯気の立ったティーポットを携えている。どうやらまたお茶の時間らしい。


(正直要らないんだけど)


 そうは言っても、この子の仕事はわたしにお茶を出すことだし、華凛が帰ってきたときに宮殿の状況が様変わりしているって状態は避けたい。あの子には少しでも快適に過ごしてほしいもの。


「ありがとうね、暁麗」


 暁麗は実家から連れてきた侍女ではなく、現皇帝の後宮で働いていた宮女だった。
 『凛風』が入内する時、後宮内のことを知っている娘がいた方が良いってことで、優秀だった暁麗を侍女として引き抜いたらしい。実際にお願いしている仕事は、小間使いや毒見役で申し訳ない限りだ。


「とんでもございません。それで、本日はどれから味見――――いえ、毒見いたしましょう?」


 ジュルリと音を立てつつ、暁麗が尋ねる。貧しい生まれなのだろうか。食い意地の張っている暁麗は、結構図太くて逞しいと思う。見た目だって全然悪くない。帝の目に留まれば、お手付きになれる程に――――――。


「そうよ! 悪くないんじゃない?」

「はい?」


 いきなり声を上げたわたしを、暁麗は不思議そうな目で見遣る。わたしは彼女の手を取ると、そっと顔を覗き込んだ。


「ねぇ、暁麗? もしも……もしもよ? お菓子をお腹いっぱい食べられるようになったら嬉しいわよね」

「はぁ……まぁ、そうなれば夢のようでございますが」

「夢なんかじゃないわ! ここはそれを叶えられる場所なんだもの」


 そう。ここは元の身分なんて関係なしに、寵愛一つでトップまで上り詰められる場所なのだ。後宮の主――――憂炎が望みさえすれば、侍女であろうと手付きになれる。妃への格上げだって夢ではない。

 外から妃を連れてこられないなら、内側に用意すれば良いだけのこと。


(そうと決まれば行動あるのみ)


 ニヤリと口角を上げつつ、わたしは暁麗に照準を定めた。
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