妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「――――――凛風はどこだ?」


 いつもの女官服ではなく、美しく着飾った暁麗を、憂炎が片眉を上げて見下ろしている。


「はぁ……凛風さまは湯浴み中でして」


 気まずそうに視線を彷徨わせつつ、暁麗が言う。

 湯浴み中なんていうのは真っ赤な嘘だ。だってわたし、本当は部屋の隅にあるでっかい壷の中に隠れてるんだもん。
 ちゃんと状況が見えるよう、ちっちゃな穴まで空けた。完璧。


「それで? 君のその格好は誰が?」


 どうやら暁麗は無事、憂炎の興味を引けたらしい。渋る侍女たちを説得して、ドレスや化粧でメイクアップさせた甲斐があったってもんだ。


(これは……イケるんじゃない⁉ )


 心臓をドキドキさせながら、わたしはゴクリと唾を呑む。久しぶりにワクワクしてきた。興奮で身体がソワソワする。


「凛風さまです。なんでも、わたしが着飾ったところが見て見たいとのお話で」

「なるほど、あいつの暇つぶしか」


 憂炎は小さく笑いながら、ため息を吐いた。

 うん、間違ってない。これはわたしの暇つぶしだ。

 だけど、今この時だけじゃなく、早くここから逃げ出したいわたしと、これから先長い時間を後宮で過ごす華凛のための、壮大な暇つぶし。その最初の一手だ。


「大変だな、お前らも」

「いえ……わたしは可愛い服が着られて嬉しいですし、美味しいものももっとたくさん食べたいです」

「美味しいもの?」


 暁麗の瞳は、野心でギラギラと輝いていた。


(いいぞ! その調子!)


 心の中で檄を飛ばしつつ、手に汗を握る。


「……そうだよな、普通はそう思うよな。綺麗な服を着て、美味いもの食って――――」


 憂炎は口にしながら、どこかへ向かって歩き出した。
 さっきまで小さく見えていた憂炎が、少しずつ少しずつ大きくなっていく。近すぎて最早顔が見えない。アイツの服が小さな穴を塞いで、目の前が真っ暗になって――――あれ?


「夫に一途に愛されたら、幸せって感じるものだよな。な、凛風?」
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