妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
(一体なんなんだ、憂炎の奴!)


 元々嫌味っぽい奴だけど、『華凛』でいる時に、こんな態度を取られるのは初めてだ。
 よしよしって頭なんか撫でちゃって、表向き『華凛』を甘やかしている風を装っているのが更に悪質。部屋の隅の方で白龍がめちゃくちゃ渋い顔をしている。


「違いますわ! 悪いのは全部わたくしで……」

「うん、そうだね」


 憂炎はハッキリきっぱりとそう言い放った。わたしのことを真っ直ぐに見下ろし、不機嫌そうに唇を引き結ぶ。


(何なんだよ、憂炎の奴)


 ちょーーっと挨拶しなかった位でこんなに怒るんだもん。皇族への敬意って言うのは何よりも優先されるべきものらしい。
 わたしに対してならまだしも、ここにいるのは『華凛』なんだぞ。
 憂炎のくせに。なんかムカつく。


「憂炎……ごめんなさい。本当に、反省してますわ」


 だけど、機嫌損ねたままじゃ仕事がしづらい。ここはわたしが頭を下げるしかない。


「まったく」


 憂炎はそう言って、唐突にわたしを抱き寄せた。


「頼むから、勝手にいなくなるな」


 小刻みに震えた身体、苦し気な声音に、なんだか胸が騒ぐ。もう一度ごめんなさい、と口にしたら、憂炎は小さくため息を吐いた。


「体調は?」

「へ?」

「悪いところは無いのか?」

「えっ? ……ええ。ピンピンしておりますけど」


 体調不良でも訴えていたのだろうか。頬をペタペタ触り首を傾げると、憂炎は腕に力を込めた。


「無茶をするな。心臓がいくつあっても足りない」

「? ……? はい、そう致します」

(変な憂炎)


 心配されているのはわたしじゃなくて『華凛』だって分かっている。華凛が一体何をしでかしたのかも分かっていない。だけど、心と身体が奇妙に騒めいて、落ち着かなかった。
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