妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
ブランクにもかかわらず、仕事は案外順調だった。
元々華凛の役割は憂炎の小間使いだし、頼まれた仕事を淡々と熟せば良いっていう事情もある。けど、やっぱり後宮生活が退屈過ぎたんだろうな。色んなことが新鮮で、楽しくて、ついつい張り切ってしまう。そうすると、憂炎や白龍が次に何を望んでいるか自然と分かるもので、仕事が物凄く捗った。
「おまえは本当に楽しそうに仕事をするな」
憂炎がそう口にする。何故かその表情は、あまり嬉しくなさそうに見えた。
「えぇ、楽しいですわ。家でじっとしているより、ずっと性に合っていますもの」
わたしはそう言って穏やかに微笑む。
華凛は大人しそうに見えて活発な娘だし、わたしのこの返答に違和感はないはずだ。
憂炎はため息を吐きつつ、書類を決裁済みの箱へと投げ入れる。
「意外だな。俺は華凛は家に入りたいタイプだと思っていたが」
驚くことに、そう口にしたのは白龍だった。わたしに興味がないどころか、必要以上に会話をすることが無かったというのに、この二ヶ月で少しは距離が近づいたのだろうか。
「そうですね。いずれはわたくしも、姉のように幸せな結婚をしたいと思っていますわ」
資料を書棚に片付けながら、そう答える。すると、憂炎がピクリと眉を上げて反応した。
(おっ、食いついたな)
今後妹が『華凛』に戻ることは無いけど、あの娘の評価をわたしが下げたままじゃ申し訳ない。ずっとずっと、名誉挽回の機会を窺っていたのだ。
「憂炎のような素敵な旦那様がいて、何不自由ない生活が送れて、姉さまが羨ましい限りです」
ニコニコと満面の笑みを浮かべつつ、わたしは言う。
「本当にそう思うのか」
「えぇ、もちろん」
憂炎の問いかけに、わたしは思い切り頷く。
本当は羨ましいなんてちっとも思ってないけど。嘘も方便。お偉いさんは持ち上げるに限る。
「……本当はわたくしが憂炎の妃になれたら良かったのに。憂炎ったら姉さまが良いって言うんですもの。今でもとても残念に思っていますわ」
『凛風』じゃなくて『華凛』が妃になる。そんなわたしの目論見が実現する可能性は限りなく低いだろう。
けれど、可愛がってる華凛にこんな風に言われたら、憂炎だってきっと嬉しい。機嫌だってきっと直るはずだ。そう思っていたのだけど――――。
「そんなの当たり前だろう」
「え……?」
実際に返ってきたのは、想定していたものと全然違う言葉と声音だった。
(どうして……?)
憂炎はちっとも喜んでなんかいない。寧ろ物凄く怒っていた。
眉間に皺を寄せ、真っ直ぐにわたしを睨み、歯を喰いしばっている。
「俺の妃は凛風だけだ。今までも、これからも、凛風ただ一人だ」
憂炎はそう言うと、静かに執務室を後にした。白龍が何も言わず憂炎を追う。部屋にはわたし一人が取り残された。
元々華凛の役割は憂炎の小間使いだし、頼まれた仕事を淡々と熟せば良いっていう事情もある。けど、やっぱり後宮生活が退屈過ぎたんだろうな。色んなことが新鮮で、楽しくて、ついつい張り切ってしまう。そうすると、憂炎や白龍が次に何を望んでいるか自然と分かるもので、仕事が物凄く捗った。
「おまえは本当に楽しそうに仕事をするな」
憂炎がそう口にする。何故かその表情は、あまり嬉しくなさそうに見えた。
「えぇ、楽しいですわ。家でじっとしているより、ずっと性に合っていますもの」
わたしはそう言って穏やかに微笑む。
華凛は大人しそうに見えて活発な娘だし、わたしのこの返答に違和感はないはずだ。
憂炎はため息を吐きつつ、書類を決裁済みの箱へと投げ入れる。
「意外だな。俺は華凛は家に入りたいタイプだと思っていたが」
驚くことに、そう口にしたのは白龍だった。わたしに興味がないどころか、必要以上に会話をすることが無かったというのに、この二ヶ月で少しは距離が近づいたのだろうか。
「そうですね。いずれはわたくしも、姉のように幸せな結婚をしたいと思っていますわ」
資料を書棚に片付けながら、そう答える。すると、憂炎がピクリと眉を上げて反応した。
(おっ、食いついたな)
今後妹が『華凛』に戻ることは無いけど、あの娘の評価をわたしが下げたままじゃ申し訳ない。ずっとずっと、名誉挽回の機会を窺っていたのだ。
「憂炎のような素敵な旦那様がいて、何不自由ない生活が送れて、姉さまが羨ましい限りです」
ニコニコと満面の笑みを浮かべつつ、わたしは言う。
「本当にそう思うのか」
「えぇ、もちろん」
憂炎の問いかけに、わたしは思い切り頷く。
本当は羨ましいなんてちっとも思ってないけど。嘘も方便。お偉いさんは持ち上げるに限る。
「……本当はわたくしが憂炎の妃になれたら良かったのに。憂炎ったら姉さまが良いって言うんですもの。今でもとても残念に思っていますわ」
『凛風』じゃなくて『華凛』が妃になる。そんなわたしの目論見が実現する可能性は限りなく低いだろう。
けれど、可愛がってる華凛にこんな風に言われたら、憂炎だってきっと嬉しい。機嫌だってきっと直るはずだ。そう思っていたのだけど――――。
「そんなの当たり前だろう」
「え……?」
実際に返ってきたのは、想定していたものと全然違う言葉と声音だった。
(どうして……?)
憂炎はちっとも喜んでなんかいない。寧ろ物凄く怒っていた。
眉間に皺を寄せ、真っ直ぐにわたしを睨み、歯を喰いしばっている。
「俺の妃は凛風だけだ。今までも、これからも、凛風ただ一人だ」
憂炎はそう言うと、静かに執務室を後にした。白龍が何も言わず憂炎を追う。部屋にはわたし一人が取り残された。