妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「なんですの? わたくしの顔をじっと見つめたりして」
「――――いや、可愛いなぁと思って」
(はぁ⁉)
暑さで頭がやられたのだろうか――――そう思いかけたけど、そういえば今のわたしは華凛だった。『凛風』に対して言うなら変な言葉でも、華凛に対してなら別に変じゃない。
「まぁ、嬉しい。だったら憂炎は、姉さまのことも可愛いと思われたりしますの? 同じ顔ですもの。少しぐらい褒めても罰は当たらないと思いますわ」
『華凛』である今だからこそ言える皮肉。
憂炎はわたしを褒めたためしがない。可愛いとか、綺麗みたいな表面的な褒め言葉でさえ、吐いたためしがないのだ。
だけど、この間の白龍の例もある。憂炎が『凛風』のことをどんな風に話すのか、少しだけ興味があった。
(まぁ、どうせボロクソに言うんだろうけど)
それは予感じゃなくて確信。
だけど憂炎は、とても穏やかに目を細めた。
「当然、誰よりも可愛いと思ってる」
「…………え?」
目の前で紡がれた信じ難いセリフに、言葉を失う。心臓がドクンと大きく跳ねて、体温が一気に熱くなった。
(嘘だろう?)
憂炎が『凛風』のことをそんな風に思っているなんて、これまで一度だって感じたことは無い。いつだって『仕方がない奴』みたいな顔でわたしを見ていたし、女というより男友達みたいに思われてるって。そんな風に思っていたのに。
「今日は楽しかったか?」
わたしの頭を撫でながら、憂炎はそう尋ねた。えぇ、と答えながら頷くと、憂炎は目を細めて笑う。何故だか胸がざわざわと騒いだ。
「あの……姉さまは元気ですか? 毎日通われているんでしょう?」
何となく居た堪れなくなって、そんなことを尋ねてみた。
再び入れ替わりを果たしてから一ヶ月。
噂によれば、憂炎はあれ以降も毎日、『凛風』――――華凛の元に通っているらしい。
憂炎が通わなければ、入内当初と同様、華凛は退屈しただろう。だが、今は違う。
華凛はわたしとは違ってあの生活に乗り気だったのだし、満ち足りた日々を送っているのだろう。
「――――そうだな。毎日会ってはいるよ」
憂炎はため息を吐きながらそう言った。微笑んではいるが、どことなく浮かない表情に見える。わたしはそっと身を乗り出した。
「上手くいっていないのですか?」
「――――――いつになったら凛風は、俺の本当の妃になってくれるんだろうな」
質問に遠回しに答えながら、憂炎はギュッと膝を抱いた。
「凛風の意志を無視したのは俺だ。だから、あいつが元々俺との結婚に乗り気じゃないことは分かっている。だけど俺は、それでもあいつのことを――――」
憂炎の言葉がわたしの心を締め付ける。
そんな切なげな顔をしないでほしい。泣きそうな声音を出さないで欲しい。憂炎に対して罪悪感なんて覚えたくない。
わたしにはもう、どうしてやることも出来ない。憂炎の望みを叶えることは出来ないのだから。
「――――いや、可愛いなぁと思って」
(はぁ⁉)
暑さで頭がやられたのだろうか――――そう思いかけたけど、そういえば今のわたしは華凛だった。『凛風』に対して言うなら変な言葉でも、華凛に対してなら別に変じゃない。
「まぁ、嬉しい。だったら憂炎は、姉さまのことも可愛いと思われたりしますの? 同じ顔ですもの。少しぐらい褒めても罰は当たらないと思いますわ」
『華凛』である今だからこそ言える皮肉。
憂炎はわたしを褒めたためしがない。可愛いとか、綺麗みたいな表面的な褒め言葉でさえ、吐いたためしがないのだ。
だけど、この間の白龍の例もある。憂炎が『凛風』のことをどんな風に話すのか、少しだけ興味があった。
(まぁ、どうせボロクソに言うんだろうけど)
それは予感じゃなくて確信。
だけど憂炎は、とても穏やかに目を細めた。
「当然、誰よりも可愛いと思ってる」
「…………え?」
目の前で紡がれた信じ難いセリフに、言葉を失う。心臓がドクンと大きく跳ねて、体温が一気に熱くなった。
(嘘だろう?)
憂炎が『凛風』のことをそんな風に思っているなんて、これまで一度だって感じたことは無い。いつだって『仕方がない奴』みたいな顔でわたしを見ていたし、女というより男友達みたいに思われてるって。そんな風に思っていたのに。
「今日は楽しかったか?」
わたしの頭を撫でながら、憂炎はそう尋ねた。えぇ、と答えながら頷くと、憂炎は目を細めて笑う。何故だか胸がざわざわと騒いだ。
「あの……姉さまは元気ですか? 毎日通われているんでしょう?」
何となく居た堪れなくなって、そんなことを尋ねてみた。
再び入れ替わりを果たしてから一ヶ月。
噂によれば、憂炎はあれ以降も毎日、『凛風』――――華凛の元に通っているらしい。
憂炎が通わなければ、入内当初と同様、華凛は退屈しただろう。だが、今は違う。
華凛はわたしとは違ってあの生活に乗り気だったのだし、満ち足りた日々を送っているのだろう。
「――――そうだな。毎日会ってはいるよ」
憂炎はため息を吐きながらそう言った。微笑んではいるが、どことなく浮かない表情に見える。わたしはそっと身を乗り出した。
「上手くいっていないのですか?」
「――――――いつになったら凛風は、俺の本当の妃になってくれるんだろうな」
質問に遠回しに答えながら、憂炎はギュッと膝を抱いた。
「凛風の意志を無視したのは俺だ。だから、あいつが元々俺との結婚に乗り気じゃないことは分かっている。だけど俺は、それでもあいつのことを――――」
憂炎の言葉がわたしの心を締め付ける。
そんな切なげな顔をしないでほしい。泣きそうな声音を出さないで欲しい。憂炎に対して罪悪感なんて覚えたくない。
わたしにはもう、どうしてやることも出来ない。憂炎の望みを叶えることは出来ないのだから。