妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「華凛――――」

「申し訳ございません、憂炎」


 けれど、凛風は再び、俺の前から居なくなった。華凛を身代わりにして。

 予感はあった。今朝、あいつの表情を見た時――――いや、もっとずっと前から。凛風は、再び入れ替わる機会を狙っているんだろうって。

 ため息が漏れる。
 どうやったら、凛風は俺のものになってくれるのだろう。どうやったら、側に居てくれるのだろう。一体、どうしたら――――。


「憂炎、姉さまを追いかけるのはもう、お止めになったら如何ですか? 辛くはありませんか?」


 華凛が尋ねる。

 辛い。想いが叶わないのは。あいつに俺の気持ちが伝わらないのは。
 だけど。


「それでも俺は、凛風が良い」


 どうしても諦めきれなかった。他の誰かじゃダメだった。

 だけど俺は、あいつの身体が欲しいわけじゃない。
 何よりも、凛風の心を欲していた。
 だから、無理やり連れ戻すのでは意味がない。


 翌朝、凛風は何食わぬ顔をして俺の前に現れた。妹の華凛として。
 俺はそのことが、腹立たしくて堪らなかった。

 だけど、活き活きと笑っているあいつを見ると、腹が立つのと同じ位、嬉しくて堪らなくなる。
 俺は凛風を不幸にしたい訳じゃない。幸せにしたいと思っているのだから。


『憂炎のような素敵な旦那様がいて、何不自由ない生活が送れて、姉さまが羨ましい限りです』


 それのに、凛風はそんなことを口にした。

 そう思うなら、俺の前から居なくなるな。ずっと、俺の側に居てくれたらいいのに。
 愛しくて、憎らしくて、苦しくなる。
 後宮に連れ帰りたくなる衝動を、俺は必死で抑えた。
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