妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
 それから数日後、凛風は見知らぬ道場に鍛錬に出掛けた。わざわざ俺達が通っていたのとは別の場所を見つけて、一人で良い汗を流している。


(可愛いな)


 だけど、悲しいかな。
 嬉しそうに笑っているあいつの顔が、俺は一番好きだった。
 活き活きと汗を流して、クタクタになるまで走り回って。


「――――いや、可愛いなぁと思って」


 素直に思ったままを伝えたら、あいつは思いがけないことを言った。


「だったら憂炎は、姉さまのことも可愛いと思われたりしますの?」


 驚いた。
 そんなの当たり前だ。俺は凛風以外、どうでも良い。そんなことも知らずにいただなんて。


「いつになったら凛風は、俺の本当の妃になってくれるんだろうな」


 ついついそんなことを呟いてしまう。


「ねぇ、憂炎。どうして憂炎は、『姉さま』を妃に望まれたのですか?」


 凛風が尋ねる。
 そうか――――本当に、全く伝わっていなかったんだな。初めてそう、気づいた。


「俺は凛風が好きなんだ」


 真っ直ぐに、目の前の凛風を見つめながら、そう口にする。


「凛風が好きだ」


 俺が好きなのは凛風だ。他の誰でもない。今、目の前にいるお前だけだ。
 どうか伝わって欲しい。願いを込めて、凛風のことを抱き締める。
 強く、強く。凛風が泣いている気がして、心が軋んだ。


 それから数日後、凛風は後宮を訪れた。
 華凛に会うそのために。

 俺の気持ちがあいつに届いたんじゃないか。戻って来てくれるんじゃないか。
 そんな淡い期待を抱いたが、凛風はまた、後宮を去った。


「まだ続けますの?」


 華凛がそう言って、俺のことを抱き締める。甘い香り。涙が出る。
 けれど、首を大きく横に振った。
 ダメだった。どうしても。凛風じゃなければ、俺は。
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