スキナダケ
「ギッ…ィ…」

左手の薬指を右手で押さえて、夕海は苦しそうに天井を仰いだ。
歯を食いしばる表情も新鮮だ。

押さえた指の隙間からボタボタと血が落ちて床を汚した。

後ろでずっと喚いている彼氏がうるさい。
こんなに美しい作品なのに何を怒っているんだろう。
感性の乏しい人間は嫌いだ。

夕海の左手を掴んだ。
もうやめてって彼女は懇願した。

パックリ開いた刺し痕を、ハナは舐めた。
夕海の悲鳴が耳を突いた。

口の中いっぱいに鉄の味が広がった。
夕海の血の味。

普通に生きてるだけじゃ経験出来ない。
ハナは成し遂げた。
ハナだから出来たんだ。

ハナの白いTシャツもこぼれた夕海の血液で赤く染まった。

「まだ死なれちゃ困るんだよね」

「しッ…!?死ぬ!?死ぬの私!?」

「死なないよ。まだね」

Tシャツを脱いで、ナイフで裂いた。
簡単に裂けたTシャツの切れ端が包帯みたいになった。

夕海の左手に巻き付けたらみるみる赤く染まっていく。

もう一枚包帯みたいな切れ端を作って、上から重ねて巻いた。
あんまり意味は無さそうだけど、何もしないよりはマシそうだった。

「血…」

夕海が即席包帯を巻いた左手を震わせながら、ハナの顔を見て口元を示す。

「え…?あぁ…」

自分の顔を手の甲で拭ったら、ベッタリと血がついた。
さっき舐めた夕海の血だ。

振り返って彼氏を見たら、完全に瞳孔の開いた瞳でハナを凝視している。

狙われてるのは彼氏なのに、自分が狩人にでもなったみたいな目だ。
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