先輩とわたしの一週間

日付が変わって土曜日、午前0時を過ぎました




 目覚めると見知らぬ天井だった。


 ゆっくりと身を起こしながらはたしてここはどこだろうかと日吉晴香《ひよしはるか》は首を捻る。しかし何一つ思い当たる場所が浮かばない。寝ていたベッドは一般的なサイズの物であるし、部屋の造りからしてもホテル、というわけではない。個人宅、であるのはほぼ間違いないだろうが、そうなるとここは誰の家なのかという最大の疑問が浮かぶ。

 待て待てこういう時は朝からの行動をじっくりと振り返ろう、何事も慌ててはいけない特にお前は落ち着きあるように見えてテンパりやすいからなって先輩にいつも、となった所で思い出した。

「……せんぱい」

 ここ最近仕事がとにかく忙しかった。軽くデスマーチかと思う中どうにか乗り切った週末金曜日、よくぞ今日まで頑張った、ということで入社してからずっと補佐として就いている先輩――葛城親弘《かつらぎちかひろ》と居酒屋に入り盛り上がっていた、はずだ。
 瞳を閉じなんとか記憶を探るがしかしそこまでしか浮かばない。アルコールに強いわけではないが、かといって弱いという程でもない。それでも普段よりかは量を飲んでいたような気がする。寝起きの今もまだ若干ふわふわとした感じが抜けないのだから、きっと居酒屋にいた時点ではかなり泥酔していたのだろう。それこそ、記憶がなくなるまでに。
 となればここはかなりの確率で先輩の家か、と結論付けた所で晴香は周囲を見回す。人の気配が感じられない。

「……先輩?」

 自分でも驚くくらいに声が不安げで、それがさらに晴香の気持ちをざわつかせた。先輩の家だと思っていたけれどももしかしたら違うのかもしれない。泥酔した相手を放置して帰るような人ではないけれど、その気遣いを振り切って帰るくらいの無謀さを自分が発揮していないとも言えない。あ、やばいかも、と晴香はとりあえず立ち上がろうとしてそこでようやく異変に気付いた。
 服が自分の物ではない。かなり大きめのTシャツ一枚だけという格好。下は何も穿いておらず素足だ。しかしそれよりももっと何かが大きく違うのだけれども、酔いと不安に襲われている身としてはそれが何なのかが分からない。

「先輩……」
「起きたか?」

 突如聞こえた良く知る声に晴香は弾かれた様に顔を上げた。暗い室内からでは明かりを背に立つ人の顔は逆光で、思わず瞳を閉じるが声の主を間違える事はない。

「先輩!」
「どした?」

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