キミの恋のはじまりは
すぐに失くなってしまったぬくもりが寂しくてその瞳を窺うように見やれば、ダークブラウンの奥に仄かに灯る。



「諸事情って…なに?」

「えっと…」

「この人のこと?」

「…葉山さん?」



苦しい、のに。
もう見ずにはいられないのがわかる。


わかる、から。

急いで唇に力を入れていつもどおりの表情をのせれば、微かに泉の眉がゆっくりと下がって切なそうに歪んだ。


なんで、そんな顔するの?

いつもさせてしまう。
きっと間違えてばかりだ。

でも、正解がわからない。


張り付いた喉に息を通して、呼びかけようと唇を動かそうとしたとき、葉山さんの声に遮られた。



「か・た・ぎ・り・くん」



いつの間にかこたくんを降ろした葉山さんが乱雑に泉の肩に腕をかけた。

驚いたように目を開いた泉に構うことなく、その肩をぐいっと引き寄せ、顔を寄せる。



「余裕ないね。ずいぶん無防備じゃん」



小さいその囁きは私には聞こえなかったけれど、泉の顔から一瞬表情が消えたのはわかった。

すると、葉山さんがくすりと笑いを零した。

泉が眉根に深い溝を刻みながら身を捩れば、葉山さんはさらに笑いを深くしてその肩を解放した。


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