キミの恋のはじまりは
そんな私に泉はぶすっと唇を尖らせ、居心地の悪そうな目をしながら、私の頬を摘んだ。
「いま、笑っただろ」
「ひゃって…泉がかわい、からぁ」
頬を掴まれながらもふふっとさらに笑いをこぼすと、泉は諦めたように目元を緩めて、溺れてしまいそうなほど深い愛しさを乗せた視線を向けてくれる。
私の視界には、すべてを溶かしてくれるあたたかい彼の姿。
胸の中に濃い甘い香りが広がって酔ってしまいそうだ。
目がくらみそうな感情で震える指先を、そっと泉に伸ばして
……むぎゅ。
その頬を摘み返すと、泉は驚いたように息を詰めた。
真っ直ぐ見上げた泉の瞳の中に、私がいる。
それが、こんなにも嬉しいなんて。
指先の力を軽くして、とろけそうな気持ちを口にする。
「……泉もね。そんな優しい目で私以外見ないで。私だけに独り占め、させてね」
一瞬目を見開いた泉は、私の頬から指を離して、力が抜けたように頭をがっくりと垂れた。
私の指も自然と泉から離れた。
「ほんと困んだけど。煽んないで。家まで我慢するのつらい……」
「……なにを?」
ふぃと視線を上げた泉が首を傾けながら、私に顔を近づける。
けれど、逡巡するようにぎゅっと目をつぶると、動きを止めた。
何かを耐えるように、そっと上げられたまつ毛の奥にある濃い茶色の瞳が私をじっと見つめている。
「どうしたの?」
私の問いかけには答えず、泉は気持ちを整えるような短い息を吐き出してた。
「~っ、早く帰ろ」
泉が身を翻して歩き出すので、その背中を追いかけながら声をかける。
「ま、まって。泉」
「ん?」
「あのね、手、繋いでほしい」
小さくねだれば、泉は言葉を詰まらせる。
なんとも言えない、悲しいような呆れたような、嬉しいような、よくわからない表情を見せるから、少しだけ心配になる。
じっと泉を見つめると、視線を泳がせ逃げるから、もっと不安になって、視界に入ろうと背伸びしてその瞳に近づいた。
「り、莉世っ、」
「…手、いや?」
「……っんなわけない」
「じゃぁ、いい?」
「………ん」
差し伸べられた手に、そっと手を重ねる。
泉の手に触れた途端、あっというまに私の指の間に泉の指が絡まって、歩き出す。
いわゆる恋人つなぎ。
……ほんとばかだったな、私。
まえの自分の失態を思い出して苦笑が漏れる。
でも、好きな人となら。泉となら、もっとつなぎたい、もっと触れていたいって思う。
心の中に湧き出る淡い気持ちが唇からこぼれ落ちると、振り返った泉がまた困ったような嬉しいような顔で私を見た。
「あー、ほんと早く帰りたい……もう限界……」
つぶやいた泉は恨めしそうに私に視線を向けて、微笑んだ。