純愛カタルシス💞純愛クライシス
「あ、済まないね。仲が良さそうだったから、てっきりご姉弟かと思って……」
失言したのを気にしたのか、堀田課長は口元に手を当てる。そこで左手の薬指に気づいた。
妻帯者なら美羽姉に手を出さない、なんて思えるハズがない。美羽姉の元旦那さんの浮気現場を、自分の目で実際見ているだけに、一切気が抜けなかった。
ここぞとばかりに仲がいいアピールをするために、美羽姉に視線を向ける。
「美羽、仲が良さそうだって。堀田さん、ありがとうございます。僕としては、そういうふうに見られるだけでも、嬉しいことに繋がります」
美羽姉から堀田課長に視線を移動し、喜んでいることを示すために、瞳を細めながら笑って声を弾ませた。俺を見つめる美羽姉は、それとは対照的に微妙な表情だった。
「小野寺さんを駅まで送ろうかと思ったけど、お役御免みたいだね。お疲れ様でした、明日もよろしくお願いします」
堀田課長は空気を読んだのか、早口で告げるなり、さっさと退散する。
「学くん、ごめんね。いろいろ気を遣ったよね」
「気を遣う? どうして?」
美羽姉は拳を握りしめる俺の右手を掴み、両手で優しく包み込む。それだけでピリついていた気持ちが、少しだけ穏やかになった。
「だって姉弟って言われたことを否定するのに、堀田課長に不快感を与えないことを言っていたじゃない。私もなんて言えばいいのか、言葉に迷っちゃったんだ」
(……そうか。俺だけじゃなく、美羽姉も気にしていたんだ――)
「姉弟って言われたくらいで、美羽姉の上司に食ってかかる物言いをしたら、ダメなことくらいわかってるし。当然じゃね?」
俺が腰を屈めて、曇り顔を覗き込んだら。
「当然かもしれないけれど、でも――」
なにかを言いかけて、やんわりと口を噤んだ。美羽姉の視線はまっすぐ俺に注がれているせいで、どうしてもわかってしまう。悲しげなまなざしが、美羽姉の心を表していた。
「なんで美羽姉が、俺に気を遣ってるのかわからないな。弟に見える俺を憐れんでいるとか?」
「違うよ、そんなんじゃない!」
「じゃあなに?」
俺は至近距離で、ズルい質問を投げかけた。美羽姉の答えがわかっているのに、それをわざと引き出そうとしてしまう。
「学くん……」
いつもより低い声の俺の問いかけに委縮した美羽姉が、包み込んでいる手に視線を落とした。直視していた視線を振り切られたことで、心の中に嫌な自分が現れる。
「ごめん。こんな言い合いしなくてもいいのに。美羽姉の前だと、どうしても甘えてしまう。俺の全部を知ってるせいで、上手に装えないから」
「装わなくていいんだよ。だって私は学くんの恋人なんだから」
「だったら受け止めてくれる? 俺の気持ち」
卑怯で気弱な俺は、美羽姉が断れないセリフを告げた。心にいる嫌な自分が、それを言えと言ったから。
「学くんの気持ち?」
訊ねながら俺に視線を戻す。不思議そうにしている美羽姉に、俺は真顔で迷いなく喋りかける。
「どんな気持ちであの場にいたのか、美羽姉全部受け止めて」
優しい美羽姉が無理して受け止めることを知って、俺はこの言葉を告げた。そして返事を聞かずに、美羽姉に包まれている手を使って利き手を握りしめ、俺のマンションに向かったのだった。
失言したのを気にしたのか、堀田課長は口元に手を当てる。そこで左手の薬指に気づいた。
妻帯者なら美羽姉に手を出さない、なんて思えるハズがない。美羽姉の元旦那さんの浮気現場を、自分の目で実際見ているだけに、一切気が抜けなかった。
ここぞとばかりに仲がいいアピールをするために、美羽姉に視線を向ける。
「美羽、仲が良さそうだって。堀田さん、ありがとうございます。僕としては、そういうふうに見られるだけでも、嬉しいことに繋がります」
美羽姉から堀田課長に視線を移動し、喜んでいることを示すために、瞳を細めながら笑って声を弾ませた。俺を見つめる美羽姉は、それとは対照的に微妙な表情だった。
「小野寺さんを駅まで送ろうかと思ったけど、お役御免みたいだね。お疲れ様でした、明日もよろしくお願いします」
堀田課長は空気を読んだのか、早口で告げるなり、さっさと退散する。
「学くん、ごめんね。いろいろ気を遣ったよね」
「気を遣う? どうして?」
美羽姉は拳を握りしめる俺の右手を掴み、両手で優しく包み込む。それだけでピリついていた気持ちが、少しだけ穏やかになった。
「だって姉弟って言われたことを否定するのに、堀田課長に不快感を与えないことを言っていたじゃない。私もなんて言えばいいのか、言葉に迷っちゃったんだ」
(……そうか。俺だけじゃなく、美羽姉も気にしていたんだ――)
「姉弟って言われたくらいで、美羽姉の上司に食ってかかる物言いをしたら、ダメなことくらいわかってるし。当然じゃね?」
俺が腰を屈めて、曇り顔を覗き込んだら。
「当然かもしれないけれど、でも――」
なにかを言いかけて、やんわりと口を噤んだ。美羽姉の視線はまっすぐ俺に注がれているせいで、どうしてもわかってしまう。悲しげなまなざしが、美羽姉の心を表していた。
「なんで美羽姉が、俺に気を遣ってるのかわからないな。弟に見える俺を憐れんでいるとか?」
「違うよ、そんなんじゃない!」
「じゃあなに?」
俺は至近距離で、ズルい質問を投げかけた。美羽姉の答えがわかっているのに、それをわざと引き出そうとしてしまう。
「学くん……」
いつもより低い声の俺の問いかけに委縮した美羽姉が、包み込んでいる手に視線を落とした。直視していた視線を振り切られたことで、心の中に嫌な自分が現れる。
「ごめん。こんな言い合いしなくてもいいのに。美羽姉の前だと、どうしても甘えてしまう。俺の全部を知ってるせいで、上手に装えないから」
「装わなくていいんだよ。だって私は学くんの恋人なんだから」
「だったら受け止めてくれる? 俺の気持ち」
卑怯で気弱な俺は、美羽姉が断れないセリフを告げた。心にいる嫌な自分が、それを言えと言ったから。
「学くんの気持ち?」
訊ねながら俺に視線を戻す。不思議そうにしている美羽姉に、俺は真顔で迷いなく喋りかける。
「どんな気持ちであの場にいたのか、美羽姉全部受け止めて」
優しい美羽姉が無理して受け止めることを知って、俺はこの言葉を告げた。そして返事を聞かずに、美羽姉に包まれている手を使って利き手を握りしめ、俺のマンションに向かったのだった。