純愛カタルシス💞純愛クライシス
ボイスレコーダーを握りしめつつ、語気を強めて訊ねたら、田所部長は額に縦じわを寄せて表情を曇らせた。
(どうしてそんな顔をするんだろう? 内容が酷かったせいかな)
「小野寺さんのそれは、確かに証拠になるものだが、その前にどうして堀田課長との会話を録音していたんだろうか? 君は常にそれを持ち歩いて、他人との会話を録っているのかい?」
「私は以前、愛する人に裏切られたことがあります。口論になったときに、証拠を見せろと問い詰められたのですが――」
良平さんとのやり取りを思い出しながら告げることは、すごくつらかった。あのときの部屋の空気感や、良平さんのセリフすべてを覚えてる。
(彼の裏切りを嘆く私に対して、得意げな顔で笑いながら言ったっけ)
『そんでその証拠は、今どこにあるんだ? 俺に見せてみろよ』
『手元にはない……』
『物的証拠を見せられないというのに、愛する俺を疑うなんて、美羽は悪いコだな』
『だってあんなもの見たら、普通は気持ち悪くて、捨てるに決まってるじゃない! 良平さんが浮気してる証拠なんだよ』
そしてあのときの私が今、目の前にいる。愛する人の裏切りを耳で確かめたことにより傷つき、どうしたらいいかわからなくなっている堀田課長の奥さん。
彼女に視線を向けながら、静かに語りかけた。
「証拠がなかった私はなにもできなくて、さらに傷つく結果になりました。そういう過去の経緯で、ボイスレコーダーを使っています。特に異性とふたりきりになったときに、使用しています。今回のような事態になった際に、証拠として使えるものなので」
「なるほど、小野寺さんのいいぶんは理解しました」
「堀田課長の奥様は、どうして今日こちらに来られたのでしょうか?」
昨夜、学くんから私を奪われて、そのまま帰ったであろう堀田課長。そのまま帰宅したというのは私の想像で、その後の足取りが不明なことと、奥さんが乗り込んできている流れがさっぱりわからなかったので、思いきって訊ねてみた。
「昨日、帰ってきたあの人の体から、香水の匂いがしたの。香水なんて電車やエレベーターに乗ったら、移るものだってわかってる。でも今までそんな匂いを漂わせたことがないし、それに……」
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭ってから、しっかり前を見据えて私を見つめる。
「不安で寝られない私の隣で、あの人が寝言で言ったの。『小野寺さん、すごくいいよ。綺麗だね』って」
堀田課長の奥さんが静かに言いきった瞬間、周囲がざわついた。いろんな意味で捉えることのできる言葉だけに、話の成り行きを眺めている面々で憶測が飛び交う様子を、複雑な心境で見渡すしかなかった。
以前の私ならこんな状況を前にしたら、ビビり散らかして「違う、私はなにもしてない!」なんて錯乱しながら、みんなに弁明していただろう。
何度か深呼吸をして神経を鎮めつつ、瞳を閉じて左手の薬指に嵌められてる指輪に触れた。
(あの春菜とやり合った実績と、学くんからの愛が私を強くしてる。大丈夫、私には動かぬ証拠があるじゃない。それをもとに、堀田課長を追い詰めるのよ!)
「奥様、堀田課長から漂った香水は、確かに私のもので間違いないです。昨夜は彼に誘われて、一緒に飲みに行きました」
ふたたび周囲がざわつく。お互いお酒を飲んだあとは、いい流れになっただろうというのが、ヒソヒソ話のざわめきによって伝わったせいで、みんなの頭の中が見えるようだった。
「のっ飲みに行った、そのあとはどうしたのよ?」
震える声の中に悲しげな想いが見え隠れしていて、つらい現実を教えなければならないことに胸がひどく痛む。
(どうしてそんな顔をするんだろう? 内容が酷かったせいかな)
「小野寺さんのそれは、確かに証拠になるものだが、その前にどうして堀田課長との会話を録音していたんだろうか? 君は常にそれを持ち歩いて、他人との会話を録っているのかい?」
「私は以前、愛する人に裏切られたことがあります。口論になったときに、証拠を見せろと問い詰められたのですが――」
良平さんとのやり取りを思い出しながら告げることは、すごくつらかった。あのときの部屋の空気感や、良平さんのセリフすべてを覚えてる。
(彼の裏切りを嘆く私に対して、得意げな顔で笑いながら言ったっけ)
『そんでその証拠は、今どこにあるんだ? 俺に見せてみろよ』
『手元にはない……』
『物的証拠を見せられないというのに、愛する俺を疑うなんて、美羽は悪いコだな』
『だってあんなもの見たら、普通は気持ち悪くて、捨てるに決まってるじゃない! 良平さんが浮気してる証拠なんだよ』
そしてあのときの私が今、目の前にいる。愛する人の裏切りを耳で確かめたことにより傷つき、どうしたらいいかわからなくなっている堀田課長の奥さん。
彼女に視線を向けながら、静かに語りかけた。
「証拠がなかった私はなにもできなくて、さらに傷つく結果になりました。そういう過去の経緯で、ボイスレコーダーを使っています。特に異性とふたりきりになったときに、使用しています。今回のような事態になった際に、証拠として使えるものなので」
「なるほど、小野寺さんのいいぶんは理解しました」
「堀田課長の奥様は、どうして今日こちらに来られたのでしょうか?」
昨夜、学くんから私を奪われて、そのまま帰ったであろう堀田課長。そのまま帰宅したというのは私の想像で、その後の足取りが不明なことと、奥さんが乗り込んできている流れがさっぱりわからなかったので、思いきって訊ねてみた。
「昨日、帰ってきたあの人の体から、香水の匂いがしたの。香水なんて電車やエレベーターに乗ったら、移るものだってわかってる。でも今までそんな匂いを漂わせたことがないし、それに……」
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭ってから、しっかり前を見据えて私を見つめる。
「不安で寝られない私の隣で、あの人が寝言で言ったの。『小野寺さん、すごくいいよ。綺麗だね』って」
堀田課長の奥さんが静かに言いきった瞬間、周囲がざわついた。いろんな意味で捉えることのできる言葉だけに、話の成り行きを眺めている面々で憶測が飛び交う様子を、複雑な心境で見渡すしかなかった。
以前の私ならこんな状況を前にしたら、ビビり散らかして「違う、私はなにもしてない!」なんて錯乱しながら、みんなに弁明していただろう。
何度か深呼吸をして神経を鎮めつつ、瞳を閉じて左手の薬指に嵌められてる指輪に触れた。
(あの春菜とやり合った実績と、学くんからの愛が私を強くしてる。大丈夫、私には動かぬ証拠があるじゃない。それをもとに、堀田課長を追い詰めるのよ!)
「奥様、堀田課長から漂った香水は、確かに私のもので間違いないです。昨夜は彼に誘われて、一緒に飲みに行きました」
ふたたび周囲がざわつく。お互いお酒を飲んだあとは、いい流れになっただろうというのが、ヒソヒソ話のざわめきによって伝わったせいで、みんなの頭の中が見えるようだった。
「のっ飲みに行った、そのあとはどうしたのよ?」
震える声の中に悲しげな想いが見え隠れしていて、つらい現実を教えなければならないことに胸がひどく痛む。