偽りの恋人と生贄の三日間
三日目

勝ったら今度こそ命令を聞いて

 鏡に、ヒョウの絵画が映っている。

 透けたリコの姿を通して、リコよりも濃く、はっきりと。

 これでは支度がしづらい、と見当違いのことを思いながら、リコは寝室のドレッサーを見つめた。

 城に入ってから三日目の朝、今日の夜に生贄は城の頂上から花畑へ身を投げなくてはならない。恐怖は、前日までのほうが強い。今からやるべきことが決まっているからだろうか。それとも朝で感情が鈍っているだけだろうか。

 何となく身だしなみを整えて廊下に出ると、今日もキトエが待っていた。雨のなか歩き続けて、ようやく人里の明かりを見つけた旅人のように、キトエが泣きそうに微笑む。

「おはよう」

「おはよう」

 キトエもいつもどおり、リコもいつもどおり、主と騎士だ。

 昨日、一緒に作りたいと約束していたので、食堂に移動してふたりで朝食を作った。リコも卵を炒ってみたが、昨日のキトエと同じくぼそぼそになってしまった。対するキトエはこつをつかんだのか、今日の炒り卵は水分が残ってふんわりしていた。このまま料理を練習すれば意外とうまくなるのかもしれない、と思って、明日のない恐怖が高波のように覆いかぶさってきて、心を止めて押しこめた。

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