初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 重い口を開く。
「……あの子は──リエラは傷ついているのです……」
(親の目から見ても、未だ引き摺っている)
 だから出来る限りの良縁でその身を守ってやろうと、尽くすその手を邪魔するものがあるのに気づいたのはいつ頃だっただろうか。

 疑念を抱いたのはリエラのデビュタント。
 あの相手からの名乗りを受けたその時だ。
 だが確信に至るには決め手も無く。子爵令息でしかない彼にそんな力は無いだろうという侮り、加えて元々抱いていた感情から、彼について深く考える事が出来なかった。

 ──彼だけは無い。
 アロット伯爵から彼への思いはそれだけだった。
 渋々リエラのパートナーを引き受けるレイモンドも、他の相手と過ごさせないようにする役だったと気付いたのも、やはりもう少し後だった。

 根回しが得意な、暗躍王子。
 それがアロット伯爵が第三王子クライドに抱く印象だった。

「そう言わないでやってくれ。話しただろう? シェイドも反省してるんだ。あれからリエラ嬢に振り向いて欲しくて必死だったこの八年の軌跡は、君も良く知っているだろうに」

 目の前でにこにこと笑う若造に苦いものを噛んだような表情が浮かぶ。勿論知っている。社交界での彼の評価は決して華やかなものでは無かったが、堅実で優秀で、確かに娘を託す親としては理想的なものだったから。
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