冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 五分ほどして、傘を差した彼が走りながら戻ってくる。

「とりあえず家に入るぞ」
「でも、ネックレスを探さないと」

 私の手首を掴んで充さんがマンションのエントランスに向かって歩き始めた。

 彼の手を振り解こうとするけれど、男の人の力に敵うわけもなく。そのまま引きずられるようにエレベーターに乗せられて高層階まで一気に昇り、自宅に押し込まれてしまった。

「とりあえず体を拭け。びしょ濡れじゃないか」
「そんなことよりもネックレスが……」
「俺は菫の体のほうが大切だ。もうひとりの体じゃないんだぞ」
「……っ」

 そう言われてハッとなる。そうだ、私のお腹には赤ちゃんがいるんだ。失くしたネックレスを探すことに必死で頭から抜けていた。母親失格だ。

「すみません」

 充さんに連れられてリビングに入ると、彼がタオルを持ってきて私の髪を拭いてくれた。

「バスタブにお湯を貯めるから温まってこい。夏とはいえそんなに体を濡らすと風邪を引く」

 タオルでわしゃわしゃと髪を拭かれながら、私の目には涙が浮かぶ。

「でも、ネックレスが……」

 まだ見つかっていない。祖母から貰った大切なものなのに。今頃、雨に濡れているはず。すぐに見つけてあげないと。
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