政略結婚は純愛のように〜完結編&番外編集〜
幻想的な光にライトアップされた夜の夢の世界を、由梨は腕に隼人を抱いてホテルの窓から眺めている。
テーマパーク内のホテルの中でも滅多に予約が取れないというこの部屋は、部屋にいながらパークのメインストリートを見渡すことができる。
夜はパレードを部屋にいたまま楽しむことができるのだ。ついさっきまで色とりどりの花火がパークのシンボルである火山の前でパンパンと上がり、パレードを盛り上げていた。
隆之と沙羅はふたりでパークへパレードを観に行ったが、まだ小さい隼人は夜に出かけるのはやめにして、由梨とふたりで部屋の中から楽しんだというわけである。
腕の中の隼人は目を丸くして、パレードと花火を見つめていた。
「はっくん、今日は楽しかったね」
黒いふわふわの髪に顔を埋めて、由梨がそう言った時、ドアを突き破るようにして沙羅が部屋に駆け込んできた。
「お母さん! すごいのよ! プリンセスがたくさんいたの! 沙羅の好きなプリンセスみんないたのよ。沙羅に手をふってくれたの!」
興奮して目を輝かせて由梨に報告をする。ピカピカの笑顔がかわいらしくて由梨の胸がいっぱいになった。
「ふふふ、おかえり沙羅」
彼女はプリンセスが大好きで、家では何度も何度も数えきれないくらいプリンセス映画を観ている。
そのプリンセスたちが目の前に現れたのだから、興奮するのも無理はない。
「よかったね。プリンセスかわいかった?」
「みんなすーごくかわいかったよ‼︎ でもお父さんは、お母さんの方がかわいいって言うの……」
沙羅はやや不満そうに言う。
どちらがどうというよりは、大好きなプリンセスに会えた幸せな気持ちに水を注されたような気分なのだろう。
余計なことを言わなくていいのにと由梨は隆之をちらりと見るが、彼は素知らぬふりで腕時計を外してセンターテーブルに置いている。
そして由梨の腕の中の隼人に向かって手を伸ばす。
「いい子にしてたか?」
隼人が隆之に向かって手と足をバタバタさせた。
お父さんのところへ行きたいという合図だ。
隆之が由梨の腕から隼人を抱き上げると、彼は嬉しそうにきゃっきゃと声をあげた。
加賀家では、いつだってお父さんは大人気だ。
代わりに由梨は沙羅を膝に抱き、リビングのソファに座る。
そしてパレードについて尋ねた。
「花火も上がってたよね。びっくりしなかった?」
「ぜんぜん平気。すっごくきれいだった。ここからも見えた? はっくんは泣かなかった?」
隼人のことを気にするのがお姉さんらしくて可愛かった。
「ちょっとびっくりしてたけど、部屋の中からだから大丈夫だったよ」
言いながら由梨は彼女が着けているブレスレットに目を留めた。
プラスチックの大きな宝石がたくさんついていて、ピカピカと点滅している。夜のパークでつけるにはもってこいのグッズだが、昼間に由梨が買った記憶はない。
「沙羅、それはどうしたの?」
尋ねると彼女は嬉しそうにニコニコとした。
「お父さんが買ってくれたの、はっくんのもあるよ」
そう言って彼女は、手にしている袋をガサガサとして中から腕時計型のピカピカを取り出した。
「また買ってもらったの?」
思わず声をあげると、隆之が気まずそうに由梨から目を逸らした。
本当に子どもたちには甘いんだから、と由梨は呆れかえってしまう。
今日一日彼は、ポップコーンやアイスクリーム、プリンセスのステッキと、言われるままに彼女の願いを叶えていた。
それなのにまだ買っただなんて!
じろりと睨むと、彼は咳払いをして口を開いた。
「いや、すごく……沙羅に似合ってたからさ」
たくさんの人に頼られる有能なはずの彼にしては、なんともお粗末な言い訳に、由梨は思わず吹き出して笑い出してしまう。
そしてくすくすと笑っているうちに、たまにはいいか、という気分になった。
隆之がややホッとしたように沙羅から腕時計を受け取って隼人の腕につけてやる。
隼人が目をパチパチとさせて、あーあーと嬉しそうな声を出した。
彼の愛情は無限に降り注ぐ雨のようだと由梨は思う。
子供たちを見つめる眼差しと、彼らを抱く大きな腕、かける言葉もなにもかもが"愛している"と言っている。
そしてその溢れんばかりの愛情は、子供たちはしっかりと感じ取っているのだろう。
一緒に過ごす時間がそれほど多くなくてもお父さんが大好きなのはその証拠だ。
「お父さんにありがとうってした?」
由梨が沙羅に尋ねると、彼女は元気よく
「うん!」
と答える。そして得意そうにニカッと笑った。
「ほっぺにちゅうしてあげたのよ」
その言葉と笑顔に、由梨は昼間に沙羅と話した、あのことを思い出しまたまた吹き出して笑ってしまう。
どうやら彼はまた最上級のお礼を受け取っていたようだ。
「そう、よかったね」
くすくすと笑いながらそう言うと、隼人を抱く隆之がにっこりとした。
テーマパーク内のホテルの中でも滅多に予約が取れないというこの部屋は、部屋にいながらパークのメインストリートを見渡すことができる。
夜はパレードを部屋にいたまま楽しむことができるのだ。ついさっきまで色とりどりの花火がパークのシンボルである火山の前でパンパンと上がり、パレードを盛り上げていた。
隆之と沙羅はふたりでパークへパレードを観に行ったが、まだ小さい隼人は夜に出かけるのはやめにして、由梨とふたりで部屋の中から楽しんだというわけである。
腕の中の隼人は目を丸くして、パレードと花火を見つめていた。
「はっくん、今日は楽しかったね」
黒いふわふわの髪に顔を埋めて、由梨がそう言った時、ドアを突き破るようにして沙羅が部屋に駆け込んできた。
「お母さん! すごいのよ! プリンセスがたくさんいたの! 沙羅の好きなプリンセスみんないたのよ。沙羅に手をふってくれたの!」
興奮して目を輝かせて由梨に報告をする。ピカピカの笑顔がかわいらしくて由梨の胸がいっぱいになった。
「ふふふ、おかえり沙羅」
彼女はプリンセスが大好きで、家では何度も何度も数えきれないくらいプリンセス映画を観ている。
そのプリンセスたちが目の前に現れたのだから、興奮するのも無理はない。
「よかったね。プリンセスかわいかった?」
「みんなすーごくかわいかったよ‼︎ でもお父さんは、お母さんの方がかわいいって言うの……」
沙羅はやや不満そうに言う。
どちらがどうというよりは、大好きなプリンセスに会えた幸せな気持ちに水を注されたような気分なのだろう。
余計なことを言わなくていいのにと由梨は隆之をちらりと見るが、彼は素知らぬふりで腕時計を外してセンターテーブルに置いている。
そして由梨の腕の中の隼人に向かって手を伸ばす。
「いい子にしてたか?」
隼人が隆之に向かって手と足をバタバタさせた。
お父さんのところへ行きたいという合図だ。
隆之が由梨の腕から隼人を抱き上げると、彼は嬉しそうにきゃっきゃと声をあげた。
加賀家では、いつだってお父さんは大人気だ。
代わりに由梨は沙羅を膝に抱き、リビングのソファに座る。
そしてパレードについて尋ねた。
「花火も上がってたよね。びっくりしなかった?」
「ぜんぜん平気。すっごくきれいだった。ここからも見えた? はっくんは泣かなかった?」
隼人のことを気にするのがお姉さんらしくて可愛かった。
「ちょっとびっくりしてたけど、部屋の中からだから大丈夫だったよ」
言いながら由梨は彼女が着けているブレスレットに目を留めた。
プラスチックの大きな宝石がたくさんついていて、ピカピカと点滅している。夜のパークでつけるにはもってこいのグッズだが、昼間に由梨が買った記憶はない。
「沙羅、それはどうしたの?」
尋ねると彼女は嬉しそうにニコニコとした。
「お父さんが買ってくれたの、はっくんのもあるよ」
そう言って彼女は、手にしている袋をガサガサとして中から腕時計型のピカピカを取り出した。
「また買ってもらったの?」
思わず声をあげると、隆之が気まずそうに由梨から目を逸らした。
本当に子どもたちには甘いんだから、と由梨は呆れかえってしまう。
今日一日彼は、ポップコーンやアイスクリーム、プリンセスのステッキと、言われるままに彼女の願いを叶えていた。
それなのにまだ買っただなんて!
じろりと睨むと、彼は咳払いをして口を開いた。
「いや、すごく……沙羅に似合ってたからさ」
たくさんの人に頼られる有能なはずの彼にしては、なんともお粗末な言い訳に、由梨は思わず吹き出して笑い出してしまう。
そしてくすくすと笑っているうちに、たまにはいいか、という気分になった。
隆之がややホッとしたように沙羅から腕時計を受け取って隼人の腕につけてやる。
隼人が目をパチパチとさせて、あーあーと嬉しそうな声を出した。
彼の愛情は無限に降り注ぐ雨のようだと由梨は思う。
子供たちを見つめる眼差しと、彼らを抱く大きな腕、かける言葉もなにもかもが"愛している"と言っている。
そしてその溢れんばかりの愛情は、子供たちはしっかりと感じ取っているのだろう。
一緒に過ごす時間がそれほど多くなくてもお父さんが大好きなのはその証拠だ。
「お父さんにありがとうってした?」
由梨が沙羅に尋ねると、彼女は元気よく
「うん!」
と答える。そして得意そうにニカッと笑った。
「ほっぺにちゅうしてあげたのよ」
その言葉と笑顔に、由梨は昼間に沙羅と話した、あのことを思い出しまたまた吹き出して笑ってしまう。
どうやら彼はまた最上級のお礼を受け取っていたようだ。
「そう、よかったね」
くすくすと笑いながらそう言うと、隼人を抱く隆之がにっこりとした。