課長に恋してます!
 一瀬君と日本酒を飲みながら、出来たての天ぷらをつまんだ。
 海老、白身魚、筍、タラの芽が出て来た。
 どれもサクサクで、美味い。

 一瀬君が食べる度に感動したような表情を浮かべて「おいしい」を連発する。
 気に入ってもらえて嬉しくなる。
 好きな場所に連れて来られて、幸せだった。
 
 お酒が進むと、一瀬君は高校卒業と同時に7才年上の担任の先生と結婚した妹さんの話をした。親御さんの大反対の中で結婚したそうで、一瀬君もかなり心配したそうだ。そして、妹さんのような恋がしたいと言った。

「一瀬君も好きな先生がいたって事?」

 一瀬君が笑った。

「全くそういう先生とは出会えませんでした。私が妹みたいになりたいって思ったのは真っすぐな恋をしてみたかったんです」
「真っすぐな恋か」
「ちょっといいなって思うぐらいの人はいたんですけど、でも、恋までにはならなくて。このままじゃいけないと思って、大学生の時に交際を申し込んでくれた人と付き合ってみたんです。その人の事、ちょっといいなって思ってましたから」
「それで?」
「それだけです。三か月付き合って、自然消滅。なんかよくわからないまま終わってしまいました」
「よくわからないってどういう事?」
「彼の事、好きだったのかわからないって事です」
「そっか」
「人を好きになるって感情をまだよくわかってなかったんです。妹のような周囲に反対されても折れない、真っすぐな恋とは全然違いました」

 一瀬君がため息をついた。

「この先、私は人を好きにならないんだって思いました。だったら、お見合いで結婚すればいいかって、開き直りました。ほら、昔の人はそうやって結婚してたじゃないですか。会った事のない人といきなり会わされて、そのまま結婚って。私もそれでいいって思ったんです。それで婚活も頑張ったんですけど、上手くいかなくて。あ、課長が本社に配属になった2日目の夜、偶然、駅で会ってコンビニで話しましたよね?」

 一瀬君と目が合う。

「そうだったね。恋愛感情がわからないって深刻そうだったね」

 一瀬君と出会って2日目の夜、彼女と最寄り駅が同じ事を知って、恋愛に悩むいじらしい女性だという事も知った。
< 125 / 174 >

この作品をシェア

pagetop