課長に恋してます!
「一瀬君だったかな」

 昼休みから戻ってくると、会社のエレベーターの中で呼び止められた。

 振り向くと香川専務だった。
 そんな偉い人から声を掛けられた事がなかったからびっくり。

「は、はい。一瀬です」
「ちょっといいかな」
「はい」

 間宮に先に戻っててもらい、香川専務にくっついて行った。
 役員専用のラウンジがある25階で降りた。

 ゆったりとしたソファのある、ラウンジまでついて行き、専務に勧められるまま白いソファに腰かけた。
 ふかふかのソファに緊張しながら座った。

 専務がコーヒーを持って来てくれた。
 恐縮しながら、高そうなカップに入ったコーヒーを頂くけど、緊張していて味がよくわからない。

「急に呼び止めてすまないね」
「い、いえ。あの、私何かしましたでしょうか?」

 仕事上で大きなミスをしてないかと、冷や冷やする。
 専務が日焼けした顔を崩した。人懐こい笑顔だけど、オーラというか、向かい合ってるだけで圧倒される。

「とって食おうって訳じゃないから、安心しなさい。話と言うのは上村の事でね」

 テーブルの反対側に腰を下ろした専務が観察するような視線を向けてくる。

 上村って……上村課長の事?
 そう言えば香川専務と上村課長は同期だって聞いた。

「さっき定食屋で聞いてしまったんだよ。君は上村と親しそうだね」

 頬が熱くなった。

 専務もあの定食屋にいたんだ。
 ホワイトデーの話、全部聞いていたのかな。

 課長とキスしたのかとか、今度会ったら押し倒せとか間宮が余計な事ばかり言っていた気がする。

 うわー。

 会社の偉い人に聞かれていたなんて恥ずかし過ぎる。
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